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「……これは、あんたまだ何か」
「何もないよ? 大丈夫。今はもう彼の顔も声も思い出せるし、伝えたかったことも伝えられたし、もう、大丈夫……」
ポタポタ、と何かが地面に向かって落ちていく。掌でそれを受け止める。落ちたのは目から溢れる涙。
「……あれ? あれ?」
涙が止まらない。次から次へと掌の上に涙が溜まっていく。目を離すことができない。
「なに、これ」
手が震えていた。次には腕が、体が、脚が小刻みに震えて止まらない。
「いや! いやぁ! 止まらない! どうしてっ! 助け、助け……あっ」
胸に痛みが走った。息ができないほどの苛烈な痛み。耐えれば耐えるほど、痛みが激しくなっていく。
「落ち着け! 今、呪縛を読み解いている! 心を落ち着かせるんだ! 奴らを呼び寄せちまう!」
「そんな……無理……無理だよ」
痛くてたまらない。泣き叫びたいくらい苦しいのに声が出せない。陽は、しゃがみ込むと頭を抱えた。
「ああっ!」
潰されてしまう、と思った。全身がだるく重い。平衡感覚が無くなり、座っているのか立っているのかすらわからなくなる。外側から内側から心が圧縮される。
「くっ……やはり他のあやかしが! 邪魔だどけ!」
男は、刀を振り回すと前髪を掻き上げて目を見開いた。
「もう少しだ! 呑み込まれるな! 自分を、自我を保て!」
どこか遠くに聞こえる男の言葉をなんとか把握すると、陽は小さく頷いた。胸が張り裂けそうな激痛が駆け巡る。歯を食いしばり、爪をコンクリートに突き立て、消えそうな意識を保つ。だが、わかっていた。もう耐え切れないと。
解放への誘惑が頭をもたげる。ナニかに預ければ楽になれるのだ。自分を無くせば気持ち良くなれるのだ。耐えなくていい、もう我慢することなんてない。
「視えた!」
傾きそうになった意識を引き戻す声を頼りに、陽は頭を上げた。
「『弧』に、『独』だ! 頭の中で文字を思い浮かべろ!」
「……弧に……独……?」
どちらも一人を表す言葉だった。だからこそ、両方合わさることで寂寥感が増す。
「孤……独。孤独」
何かが、陽の零れ落ちた記憶の中から何かがふわっと浮かび上がる。それは、言葉だ。誰かから言われた言葉。
『一人で遊んで』
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