急がば渡れ楽しめ雨

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*** 「雨が止むまでごゆっくりどうぞ」 借りたタオルで身体をわしゃわしゃと拭いていると、開口一番にわたしを叱ってきた店員さんが 大きなロックアイスの入ったグラスに麦茶を注いでくれた。 ジュアー。 くるんくるんくるん。 「ありがとうございます」 そんなに広くないお店とはいえ、わたしと店員さんの二人だけの空間ともなると、 自分の声が反響しているかのように思えた。 「いえいえ。見ての通り暇だしね」 「いつも、おひとりでお店を回されてるんですか?」 「そうだね、まあ自分の店だし、従業員を雇う体力もないしね」 「あーじゃあ店長、さん?」 「そうだね、店長です」 店長さんはわたしに微笑みかけつつ、海の方を向いて話をつづけた。 「ここ、結構いい海でしょ?昔は観光客もたくさんいたんだけどね。今はウミネコじゃなくて閑古鳥が鳴く喫茶店ってわけさ」 みぃ゛ぃ゛んミンミンミンみぃ゛ぃぃん。 みぃ゛ぃ゛んミンミンミンみぃ゛ぃぃん。 「セミの声しか聞こえないみたいですけどね」 「はは、確かに!」 話が一段落したことを察知したわたしは、せっかくなのでいただいた麦茶を飲んだ。 くるん。 ごく。 くるん。 ごく。
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