急がば渡れ楽しめ雨

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ざざぁ……、ざぁあん。 ざざぁざあ……、っざぁん。 ざぁ……。 ……ざぁん。 みぃ゛ぃ゛んミンミンミンみぃ゛ぃぃん。 みぃ゛ぃ゛んミンミンミンみぃ゛ぃぃん。 深呼吸をすると、窒素、酸素、アルゴンと共に夏の環境音が体内を駆け巡る。 「晴れていれば最高のロケーションなんだけど、降りはじめそうだな……」 わたしの言葉を待っていたとばかりに、ぽっ、ぽっ、と雨粒が新たな音を奏で始める。 傘を持たずに旅館を飛び出していたわたしは、焦げ茶色の楽器ケースを頭上にかざしてひとまず雨を凌ごうとする。 わたしの甘い見通しとは裏腹に、ケースを天につきあげてから数十秒も経たないうちに、雨粒の群れは雨となって一帯に降り注ぎはじめた。 ザザザザザザザザザザザザザザザザ。 ドツドツドツドツドツドツドツドツ。 「早く戻らなきゃ……」 早く旅館に引き返さねば、と来た道を振り返るが、百数段はあるとみられる石段を見上げてしまったせいか、旅館に戻ろうという気力は出てこなかった。 カーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーン。 ……ゴトン……ガタンゴトン……ガタンゴトン。 音につられ再度海の方を見やると、褪せた黄色がアイボリーになっている踏切越しに、一軒の喫茶店が佇んでいることに気が付いた。 踏切の発する警告音に急かされ、頭上に掲げていたケースを両腕で抱きしめながら、わたしはその喫茶店へと駆け込むのだった。 カランカーン。 ハァ、ハァ、ハァ。 スゥーッ、ッハァー。 腹式呼吸という概念を理解できないわたしなりに、呼吸を整えるべく膝に手を当てて立っていると、 想っていたのとは違う第一声が、耳に飛び込んできた。 「ちょっとキミ!危ないじゃないか!」
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