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プロローグ
違う。
何か、違う。
廊下の掲示板に貼られたポスターを眺めながら、詩音は独り言ちた。
楽器紹介。ポップな字体で書かれたそのタイトルの下に「ホルン・エデン」と意味深なサブタイトルが添えられている。紫のマーカーで。そしてさらにその下に楽器の写真と文。
ホルン・エデン。エデン……楽園、だっけ。
そんなことを頭の片隅で考えながら、ポスターを読む。中身はただのホルンの説明だった。文章に誤字脱字はない。もはや完璧すぎるが、所々にある謎の挿絵に思わず吹き出した。
あっはっはっ。なんだこれは。とにかく謎だ。顔なのだろうか。得体の知れない何かが黙読の邪魔をする。きっとホルン奏者は個性の塊なのだろう。このポスターの作成者は、笹木ひので。……日の出? なんか、名前からすごそうだ。
でも、違う。
写真を凝視する。睨みつける。
こんなに面白いポスターなのに、違う。こんな楽器、見たことない。詩音は、その楽器を知らない。知らない、のではなく、記憶と違う。食い違っている。ズレている。
詩音の知ってるホルンは、丸くないのに。
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