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「婚約者として共に夜を迎えろと、そう言われた」
「…………は……?」
「初夜と言えばわかるだろう」
一瞬、セロイスが何を言ったのかカメリアはわからなかった。
――初夜。
それは結婚した男女が夫婦となり、共に迎える初めての夜のことだ。
「…………初夜!?」
セロイスに言われたことの意味を理解したカメリアは思わず叫び、セロイスに詰め寄った。
「ちょっと待て! どうして私とお前が、しょ……初夜を迎えなければならないんだ!?」
「確かに、今の時間は夜とは言わないな」
「そういう問題じゃないっ!」
真面目なのか、事の重大さをわかっていないのか。
ずれた答えを返してきたセロイスにカメリアは思わず声を荒立てた。
「私が言っているのは、どうしてお前と私が共に夜を迎えなければならないのかということだ!!」
カメリアはセロイスと結婚したわけでもなければ、恋人同士ですらない。
二人の関係を言うならば同僚であり、ただの仕事仲間だ。
恋人ですらないカメリアとセロイスがどうして初夜を迎えないといけないのか。
「そもそも、どうしてお前はそんなに落ち着いていられるんだ」
「本当に何も聞いていないようだな」
「何も聞いていないって……」
「俺とお前が正式に婚約し、結婚相手となることを前提に初夜を迎えることをだ」
「おい、待て……」
カメリアはセロイスの胸元をつかんだ。
ただの聞き間違いだとそう思いたかった。
――むしろ、そうであってほしい。
そんな願いを込めて、カメリアはセロイスにたずねた。
「誰と誰が、婚約だと?」
「俺とお前がだ」
セロイスの言葉がカメリアの願いを打ち砕いていった。
何が悲しくてベッドの上で、勝手に決められたことだとは言え、婚約者のセロイスの口からそんなことを聞かされなければいけないのか。
「そんなこと、私はなにひとつ聞いていないぞ」
「まぁ、今、初めて言ったからな」
「私はそういうことを言っているんじゃない……」
セロイスの胸元をつかんだままうなだれるカメリアに、セロイスは胸元から何かを取り出すと、それをカメリアに差し出した。
「これは?」
「俺達の婚約に関する誓約書だ」
カメリアがそれを広げてみると、そこに書かれていたのはカメリアとセロイスの婚約を認めることが記された文書だった。そこまでは一般的な誓約書だったのだが、その最後に綴られているサインにカメリアは頭を抱えたくなった。
「これって……」
――婚約の見届け人として最後に書かれていたサイン。
そこに書かれているサインはバレーノ王国の王子・ロベルトのものだった。
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