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 赤い炎が揺れている。  どこだろうかと見回そうとするけれど、その炎以外には風景はなく、ただ墨で塗られた闇が貼り付いているだけだ。  どうしてだろうか、視界の中央で揺らめく炎はまるで熱くなく、ただその場に電灯のように吊り下がっているだけだ。 「何を、言いたいんだ……?」  いるはずもない誰かに問いかける。その時まで、自分が独りだとは気付かなかった。 「全てを呑み込もうとするのか……」  それとも、全てを排除したいのか、お前は。  混沌すら生温い絶無のなか、俺は朧な感覚で腕を伸ばした。
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