2「無くなった光」

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「はっ!」  赤い光が周囲を染め始める。敷石が後ろを見て、見上げれば。  鮮やかな血赤色に輝く大きな満月が校舎の遥か空中に浮かんでいる。その色は通常のブラッディムーンとは全く違い、明るさは太陽にも劣らないほどに眩い。  呪影に沈む街の中でも見えるほどに異様な光は、全てを変えてしまいそうに禍々しい。 「まぶしい……」  遊維が呟いた。あまり見ていると眼には良くなさそうだった。  周囲で漂っていた呪影が、その光を浴びて動きを急速に変えていく。その闇が集束していくのを見ながら、敷石は刀を抜いて崩し正眼に構える。  大量に集まる呪影は街全体から集まっているようだった。その動きには街で動いている鬼源装使いたちにも判るだろう。  冷たい風が吹く。呪影そのものはひどく冷たく、命を感じさせない。文字通りに命を喰らう自然災害なのだ。  月を背景に闇が集束していく。その奥から重く響く声が二人の鼓膜を揺さぶる。 『…………は、は、――っは、、は。ははは』  ノイズに塗れた笑い声とともに闇色の塊がぎちりぎちりと肉体を構成していく。 「……こいつ、ヤバいな」 「本当にね」  屋上の周囲にある地面や建物がビリビリと震動する。  普段気配や霊圧なんてものがわからない敷石にさえ、寒気に似た恐怖の感覚が心臓の奥から迫り上がってくる。 「だからといって、逃げるわけにはいかないよ」 「解ってる。全力で、な」 「うん」  本当は遊維を残したくはなかった。敷石一人で戦おうと思っていたのに、どうしてもそれを言い出せなかった。  恐怖に呑まれた時、戻ってこられなくなる可能性があるのだから。そのときに一人で居たくはなかっただけだ。  ぎゃちりっ。  ゴムの擦れるような音が響き、真正面にその男は着地した。  敷石と遊維を洞のような眼で眺めながら、ひび割れたコンクリートを払い除ける。 「また、貴様らか。こんな大仰なものを使って喚び出すとは、相当私に執着しているのだな」  呪影にして魔術師、リーファイ・ジョンドゥは心底面倒そうに気の抜けた声を発する。  その気怠げなくせに筋骨のしっかりした姿に覚える印象は、やはりひたすらに恐ろしかった。  そんな沈んだ空気の中で、修羅焔が激しく鳴いて怒りを撒き散らしている。
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