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天高く、月が登っていた。
彼らから少し離れた場所に、華と麗菜がいた。
「今日はありがとうございました。華さん」
その言葉に、華は、ふんわり微笑みを浮かべた。
「いいえ、わたくしは何も」
控えめな口調に、麗菜が小さく首を振る。
「こうして兄さんと逢えて、本当に良かった」
すると麗菜は、華の手を取り、ぎゅっと握りしめた。
「華さん、兄さんの事、どうかよろしくお願いします」
「それはもちろん。これからは、麗菜さんも一緒に、是非猫集会へいらしてくださいね」
そんな華の言葉に、麗菜の表情が、暗く沈んだ。
「私、ご主人様が来月お引越しをするので、もう、ここへは来られないんです」
華は一瞬、何のことか解らないとでも言うように、エメラルドグリーンの瞳を大きく見開き、小首を傾げた。
「動物病院へ行ったのも、予防接種を済ませてから引っ越しをしようと、ご主人様が連れて行ってくれたんです」
言われて、華は、ようやく麗菜の言葉の意味を理解すると、今度は麗菜の手をぎゅうっと握り返した。
「そんな、せっかくこうして逢えたのに」
華の大きな瞳が、見る間に潤んだ。
「華さん、約束してください。このことは、誰にも言わないって」
「えっ、どうして…」
華は、小さく頭を振る。
「だって、再会の日が、お別れの日でもあるだなんて、そんなこと兄さんには言えない」
麗菜は、そっと華の手を解くと、自分の両手で包み込んだ。
「だから、お願いします。誰にも言わないって」
もう、それ以上、華は言葉を掛けることが、出来なかった。
「華さん、みんなのところへ行きましょう!」
麗菜は、ことさら明るい声で言うと、華の手を握り直し、宴会の輪の中へと入って行くのだった。
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