未来の夏。

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 彼は、ちゃんと自分が口に出してしまった自覚があったのだろう。熱中症患者と間違われてしまいそうなほどに、彼の顔はもちろんのこと耳から首まで赤くなっていた。  私は彼の手を取って、彼を拉致していた。周りの焦るような挙動を気にすることなく、突然の授業放棄に怒る先生の声も無視して私は走り出していた。  それから、無我夢中に走っていた。秋に行われるマラソン大会の時よりも、今なら好タイムが出せるのではないかと思うくらい、この時は足が進んだ。  それから学校近くの駅に乗り込んで、ICカードで改札を通って丁度来た電車に乗る。ガタンッと電車が動き出した途端に、急に疲労感がやってきて息が荒くなる。  何を言わずとも二人して座席に座って、息を整えることに注力した。ドクドクと聞こえていた心臓の音がトクトクに変わり始めた頃、私は周りを見渡す余裕が出来ていた。  この車両の中には私達しかおらず、二人で貸し切り状態だった。  電車が動く音に、セミが鳴く声とクーラーの起動音。そこに彼の息遣いと蒸し暑い外気が感じられない事が加わって、この車両内だけ現実世界から切り離された空間のようだ。  私たちは何も話すことはなく、40分くらい電車に揺られていた。その間、私から繋いだ手は離れることはなかった。
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