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微妙なすれ違い ユウフェside
ヨークシティでのデートの帰り道、少し予定外の事もあったけれど、楽しいひと時を過ごせた私は、名残惜しむ気持ちをおさえ馬車に揺られながら、勇者様に買ってもらった指輪を眺めて居た。
貴重な素材である炎龍の宝玉が組み込まれた指輪の輝きは小さくも一際美しい。
この炎龍の宝玉という素材は、勇者様が魔物の討伐などで使っている剣〝魔剣グラム〟に組み込む事によって、魔王殺しの剣に変化する。つまり武具の攻撃力を飛躍的に上げる。
(勇者様は、それを知っている筈なのにどうして私の指輪なんかに…まさかー・成る程、きっとそうだわ。
貴重な素材だからこそ、暫くはこうして預かって居て欲しいと言う事ですね!)
確かに、魔王殺しの剣を小説で使ったのはラスボスである南の魔王と戦う時だった。何故なら炎龍の宝玉を扱える、腕の良い鍛冶屋は〝最果ての大地〟と言う所にある。
〝最果ての大地〟に行くには、まず東の魔王を倒さなければならない。
つまり暫くは、武具には出来ず、素材のまま持って居なくてはいけないのだ。
貴重な素材は狙われやすいし、実際旅をして居たら物取りとか、思わぬアクシデントでおっことすとか気になるのは至極当然。
だが、素材ばかり気にして旅をするのは煩わしい。
ならば安全で信頼出来るところに素材を預けたいだろう。
ーー勇者様は私を信用してくださっているのだわ。小説では少しよそよそしさもある関係だったけれど、そう言えば小説よりも勇者様との距離が近い気がする。
この間のキスといい、ヒロイン不在時のサービスが小説よりも過剰かもしれない。
私が前世の記憶を持って居なければとんでもない勘違いをしてしまうほどに。
その原因の発端はわかってる。
何故か勇者様が小説とは違って別宅を使用せず、王から賜った邸宅にそのまま帰ってくるから管理している私との絡みも多くなった事が影響しているんだろう。そしてその結果信頼度が増した。
(まさか、貴重な素材を預けてくれる程に勇者様の信頼を勝ち得るなんて、まさかそんな光栄な…)
心底信用出来るなら、貴重な素材の隠し場所に私はうってつけだ。
婚約者である私が指輪をつけているのは自然な事。誰もこれが貴重な素材である事には気付かない。
(流石勇者様、この様な方法で素材を守る方法を思いつくなんて…)
尊敬の眼差しで、景色に視線を向けている勇者の横顔を見ながらも、胸の前で小さく拳を握る。ユウフェは信頼故に与えられた役割が嬉しくて興奮気味に決意を固めていた。
(優秀なサブヒロインであるこのユウフェ・ヴィクレシア。この命に変えても勇者様の信頼に答えてみせます!この貴重な素材は命を賭してでも隠しきりますので安心して任せてください!)
「?」
ユウフェの熱い視線に気付いた勇者は、その熱意がわからずに首を傾げて居た。
ーーそれもそのはず、王道ファンタジー小説主人公の勇者がその様に複雑な事を考えている訳がないーー
「ありがとうございます、勇者様。」
〝信頼してこの様な役割をくださってありがとうございます〟その意味を込めて指輪をつけた手を大事そうに抱えているユウフェの姿に、勇者は照れくさそうに頬を朱らめながら言った。
「いや、寧ろ遅くなってごめん。こう言うの実は慣れてなくてさ。」
「ふふっ、勇者様から貰ったもの(役割)であれば私は何でも嬉しいです!」
小さな艶のある唇が弧を描き、興奮から蒸気してほんのり赤みのさす頬で心底嬉しそうに満面の笑みを浮かべるユウフェに、思いの外胸が高鳴った勇者は、再び外へと視線を逸らした。
「な、何だかちょっと熱いな。
そうだ、ユウフェ。
少し馬車を止めて外に出ないか?
夕焼けの景色がとても綺麗だ。」
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