【 第一話: アンドロイドによる大量殺人事件 】

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【 第一話: アンドロイドによる大量殺人事件 】

 時は、204X年。  その頃、俺は旧型アンドロイド『マジカ(まじか)』と一緒に暮らしていた。  世の中は、徐々に人型アンドロイドが普及していき、旧型モデルと新型モデルのアンドロイドが共存し始めた頃だった。  旧型のアンドロイドは、まだその当時、高価だったアンドロイドを、お金持ちのセレブたちが好んでメーカーに作らせ、量産型も中にはあったものの、主に、セレブ向けに一体物の高価な、人間に近い性能を持ったアンドロイドが主流だった。  そこに、同じ形をした量産型の新型アンドロイドが登場すると、大量生産によるコストカットにより、一般人にも購入できる値段にまで下がってきたことで、徐々に一般の家庭にも普及するようになっていた。  そんな時代の流れの中、ある日、俺たちが朝食を取っていると、テレビからこんなニュースが流れて来た。 『緊急ニュースが入って来ました。昨日夜、東京都世田谷区で、旧型アンドロイドよる大量殺人事件が発生した模様です』 「えっ? 旧型アンドロイドによる大量殺人?」 「やだ、ヒロシ(ひろし)、こわい……」 『旧型アンドロイドが、訪ねて来た人たちを次々に殺害し、警察官も数名殺害された模様です』 「ど、どういうこと!?」 「アンドロイドが人を殺したってこと……? ヒロシ、何で……?」 「分からない……」 『現場から、中継が繋がっているようですので、現場を呼んでみたいと思います。現在の現場の様子はいかがでしょうか?』 『はい。こちら昨日夜、旧型アンドロイドによる大量殺人事件が発生した現場に来ております。現在、警察とのにらみ合いが続いているようです。警察も数名殺害されているとのことで、現場は騒然としています』 『その旧型アンドロイドは、何人くらい殺害したのでしょうか?』 『はい。警察の調べによると、少なくとも、8名の人が亡くなっているのではないかとの情報が入ってきております』 『8名ですか?』 『はい。少なくとも8名とのことです』 『何故、そのアンドロイドは、そんなに人を殺しているのでしょうか?』 『はい。こちらも警察関係者から聞いた情報では、どうやら、この家のアンドロイドの主人が、高齢により亡くなっており、その亡くなった老人を守るために、近寄った親族や、警察官を次々に殺害しているのではないかとのことです』 『高齢のご主人さまを亡くして、それを守るために殺しているということですか?』 『はい。どうやら、そのようです』  そのニュースは衝撃だった。  人間は年老いていけば、いずれ死ぬことになるが、アンドロイドは壊れない限り、ずっと生き残り続けるのだ。  当たり前のことではあるが、これだけ日本が高齢社会になってしまうと、こういう問題は、次々に発生する可能性はあるのだ。 『え~、一旦、中継をこちらへ戻します。え~、本日、丁度、この旧型アンドロイドについて、新たな考え方を持っていらっしゃいます「宗教法人:AAC(エーエーシー)」代表でもあり、教祖でもあります『堂尊(どうそん)さん』に来て頂いております。堂尊さんよろしくお願いします』 『よろしくお願いします』 『まず、今回のこの事件を、堂尊さんはどのように見ていますでしょうか?』 『はい。この事件は、旧型アンドロイドによる大量殺人事件だと思われますので、まずは、この旧型アンドロイドを速く、日本政府が回収する必要があると思います』 『といいますと、どういうことでしょうか?』 『この旧型アンドロイドというのは、当初値段が高く庶民には普及せず、主にお金を持っている方を中心に、極めて人間に近い形で作られて来ました。しかし、あまりにも人にそっくりにお金をかけて似せて作ってしまったため、本物の人と見た目ではすぐには判別が難しいという特徴があります』 『旧型アンドロイドは、お金持ちの人たちが人間にそっくりなアンドロイドを作ってしまった特徴があるということですね?』 『はい、その通りです。その反面、最近の量産タイプは、逆に、アンドロイドだということがすぐに判別できる機能を搭載するようになりました。私たちの開発したこのスマホのアプリにて、スマホを向ければ、それが人なのかアンドロイドなのかをすぐに判別が出来ます』 『最近、はやり始めたスマホアプリですね。私も使わせてもらってます』 『ありがとうございます。このアプリの機能は、人とアンドロイドを区別するだけでなく、アンドロイドの動きを強制的にスリープモードにするということが出来ます。つまり、アンドロイドの動きを止めてしまうというものです。これは、今回のような大量殺人事件などを起こすアンドロイドがいた時の場面で、とても有効な手段として使えるのではないかと考えています』 『つまり、このアプリがあれば、あのアンドロイドも止められるということですね?』 『はい、その通りです』  俺は、そのニュースの内容に釘付けになってしまった。  なぜならば、マジカも、旧型アンドロイドに属しているからだ。  俺は、しばらく食事も喉を通らず、そのテレビのニュースを見つめていた。 『あっ、解説が途中ですが、現場で何か動きがあったようです。現場に繋ぎます。現場で何か動きがありましたか?』 『はい! たった今、白い衣装を着た6名の若者たちが、警察の静止を振り切って、その家の中へ入っていった模様です!』 『白い衣装を着た若者たちですか?』 『はい! おそらくは、最近、(ちまた)で起きている「アンドロイド()り」と呼ばれている行為ではないかと思われます!』 『「アンドロイド狩り(・・・・・・・・)」ですか?』 『はい! おそらくは、そうではないかと思われます! あっ! 今、その若者からの合図で、警察も家の中へ突入した模様です!』 『警察もいよいよ、突入したとのことですか?』 『はい! あっ、今、警察官が一人出てきて、手で「(まる)」の合図を出しました! どうやら、その旧型アンドロイドを取り押さえた模様です! 今、警察官が何名か入って行き……、あっ! 出てきました! どうやら、ビニールシートを担架のようにして、旧型アンドロイドが出てきたようです! し、しかも、バラバラになっています! 旧型アンドロイドはバラバラにされています!』 『バラバラにされているんですか?』 『はい! どうやら、先ほど先に入って行った白い衣装を着ていた若者グループが、アンドロイドをバラバラにした模様です!』 『最近、よく発生しているあの「アンドロイド狩り」と同じ状況ということですね?』 『はい! どうやら、そのようです! 白い衣装を着た若者グループも次々に出てきました! おそらくは、先ほどスタジオにいる堂尊さんからの説明にもあった、あのスマホアプリを使って、旧型アンドロイドの動きを止めて、バラバラにしたようです!』 『堂尊さん、堂尊さんの宗教団体が開発したそのスマホアプリを使ったようですね』 『どうもそのようですね』 『今まで、巷で発生していたあの「アンドロイド狩り」に使われていたものと考えて間違いないでしょうか?』 『それは、何とも言えません。このアプリは私たちの考える「アンドロイドがいなくても快適に安全に安心して暮らせる社会」を目指そうということで、開発していますので』 『しかし、ある雑誌の記事では、その「アンドロイド狩りの会(・・・・・・・・・・)」という組織を影で操っている首謀者(しゅぼうしゃ)ではないかと、堂尊さんは言われておりますが』 『そんなことは決してありません。私どもは「アンドロイド狩りの会」とは一切関係がございませんし、「アンドロイド狩り」をしなさいという教えは一切しておりません』 『すると、堂尊さんは、一連の「アンドロイド狩り」には、一切関わっていないということですか?』 『はい。私どもはあくまで、アンドロイドに頼らず、今までの人間の営みを取り戻して行きましょうと言っているだけですから、決して「アンドロイド狩り」のようなそんな野蛮な行為を勧めている訳ではありません』 『しかし、今回の白い衣装を着た若者グループは、どう見ても堂尊さんの宗教法人:AACの関係者だと思われますが、いかがでしょうか?』 『今回の事件に関しては、そうかもしれません。ただ、今回は既に8名の犠牲者が出ておりますので、無事解決出来たことで世の中に少しでも貢献出来たのではないでしょうか』 『まあ、確かに、警察官も手が出せずにいたこの大量殺人事件を解決したというのは、今回良かったのではないかと思います』  どうもその『堂尊(どうそん)』という教祖は、最近急拡大している宗教団体:AACの代表で、アンチ・アンドロイドを提唱している人物のようだった。  そのため、アンドロイドに頼らない社会の実現を目指して、次の国会議員選挙に立候補するため、最近テレビによく出演している人物だった。  歳は40代後半くらいか、(ひげ)をはやしており、穏やかな口調で、とても頭のいい印象だ。  アンドロイドと人を自動的に判別でき、またアンドロイドをスリープ状態にできるアプリを開発したことでも有名になり、若者の間でも流行っているスマホアプリの一つになっている。  信者も若者を中心に、爆発的に増えているらしく、急激に力を持ってきている人物でもあるようだった。 『あっ、また新たなニュースが飛び込んで来ました。たった今、またアンドロイドが殺人を犯した模様です。こちらも中継が繋がっているようですので、そちらへ切り替えたいと思います。そちらの現場からお伝え下さい』 『はい! こちら先ほど、犬を散歩中の女性が、旧型アンドロイドによって、殺害された模様です! 現在、警察がブルーシートで周りを囲み、現場検証が行われているようです!』 『どんな状況だったんでしょうか? お伝え下さい』 『はい! 警察関係者に確認したところ、その殺害された女性が犬の散歩中、その犬が旧型アンドロイドの男性主人に噛み付き、怪我を負わせたことに対して、アンドロイドが主人を守るためにその女性と犬を殺してしまったとのことです!』 『また旧型アンドロイドが、散歩中の犬から主人を守るために、人を殺害してしまったということですね?』 『はい。どうやら、そのようです。それから、またあの白い衣装を着た若者グループが、スマホアプリでそのアンドロイドをスリープ状態にし、鉄パイプのようなもので、その殺害したアンドロイドをバラバラにした模様です』 『そうですか。またしても、白い衣装の若者グループにより、殺害したアンドロイドをバラバラにしたということですね?』 『はい、目撃者の話によると、どうやらそのようです』 『はい、分かりました。一旦、またこちらへ切り替えます。堂尊さん、またしても旧型アンドロイドによる痛ましい殺人事件が発生したようですが、どのようにお考えでしょうか?』 『はい。またしても旧型アンドロイドによる殺人事件ですね。先日も、お父さんからプレゼントされたお子さんが、お父さんとけんかになって、そのお子さんがお父さんを殺すように命令して、その旧型アンドロイドがお父さんを殺害するという、何とも悲しい事件があったばかりですが、このような旧型アンドロイドによる殺人事件は、今後も増えていくと思われます』 『そうですね。先日もそのような悲しい事件がありましたね。では、堂尊さんは、どうすれば、このような旧型アンドロイドによる殺人事件が減って行くとお考えでしょうか?』 『はい。私はこのままですと、またこのような痛ましい事件は発生すると思いますので、日本政府がしっかりとした規制をして、対応していくことが必要と考えています』 『もう少し、具体的に言いますと』 『そうですね。まずは、私は、旧型アンドロイドを国が回収する必要があると考えています』 『国が、旧型アンドロイドを回収するということですか?』 『はい、そうです。もちろん、ただ回収するのではなく、新しい法律に則った、新型のアンドロイドを国が許可制にして、その暴走をしないような新型アンドロイドと交換する形で、旧型アンドロイドを回収するという提案です』 『なるほど。それはいい案ですね』 『そのためには、しっかりとした新しい法律が必要となってきます。そこで、私たちAACでは、新しい法律を提案し、日本国政府としてこの問題に取り組んでいくようにして行きたいと考えています』 『つまり、それは、最近、雑誌とかに取り上げられている、国政選挙への出馬を意味しているということで間違いないでしょうか?』 『そう捉えて頂いて、問題ありません』  俺は、このニュースを見て、凍りついた。  確かに、旧型アンドロイドは人を殺した。  ただ、旧型アンドロイドは、どれも主人に忠実で、主人を守るため、あるいは、主人の言う通りに行動をし、結果的に人を殺してしまっていた。  この点は、アンドロイドが主人に忠実が故に、引き起こされた事件であるとも言えるのだ。  ただ、誰しもこのままで良いとは考えていなかった。  だから、余計にこの謎の宗教団体AACの堂尊の存在が、どんどんと大きくなってきていた理由だったのだろう。  俺は、隣で座っている旧型アンドロイドの『マジカ』のことが気になっていた。  彼女もこの報道を見て、『アンドロイド狩り』に対する恐怖が芽生え始めているようだった。
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