【 第二話: アンドロイド狩り 】

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【 第二話: アンドロイド狩り 】

 この『旧型アンドロイドによる大量殺人事件』をきっかけに、世の中の流れが一変した。  宗教団体:AACの『堂尊(どうそん)』が唱える考え方が、世間に広まっていったのだ。  AACはさらに信者を増やしていき、日本全国に支部を置くほどに急速に勢力を拡大していた。  また、堂尊は、連日のように報道される「旧型アンドロイドによる殺傷事件」の解説者として、テレビ局に引っ張りだこだった。  俺たちは、連日のようにテレビから流れてくるこの「旧型アンドロイドによる殺傷事件」と若者グループによる「アンドロイド狩り」のニュースをただただ、見つめるしかなかった。 『またしても、痛ましい「旧型アンドロイドによる殺人事件」が発生してしまいました。昨日、ある男性が、当時付き合っていた女性との別れ話の口論中に、自分の旧型アンドロイドに命令し、その女性を殺害して、その遺体を自分の家の庭に埋めるという悲惨な事件が起きてしまいました。堂尊さん、またしてもこのような痛ましい事件が発生してしまいました』 『はい。これも旧型アンドロイドによる殺人事件ですので、やはり、日本政府は何らかの手を打たないといけないと考えます』 『そうすると、やはり、何か規制をするということになるんでしょうか?』 『はい、そういうことになるんだと思います。私ども宗教団体:AACでは、このようなことが二度と起こらないようにする、新しい規制というのを現在策定中です』 『それはどのようなものなのでしょうか?』 『まだ、詳しくは申し上げられませんが、次の国政選挙では、この新しい規制をはっきりと掲げて立候補したいと考えています』 『やはり、次の選挙には出馬するということですね?』 『はい。そう捉えてもらっても構いません』 『分かりました。では次に、「アンドロイド狩りの会」との関係性をもう少しお話頂けませんか?』 『はい。私どもAACでは、「アンドロイド狩りの会」とは一切の関係はありません』 『しかし、連日のようにこの「アンドロイド狩り」が行われている現状がありますが』 『はい、確かに、若者の間でこのようなゲーム感覚的に「アンドロイド狩り」をしている人はいると思います。しかし、私どもはそのような危険で、野蛮なことに手を貸しているということはありません』 『本当にそう言い切れるのでしょうか? 一部雑誌では、堂尊さんが、裏の首謀者ではないかとの報道もされておりますが』 『私は、そのような指示もしておりませんし、そのような考え方を提唱している訳でもありません。私どもはあくまでも、「アンドロイドがいなくても快適に安全に安心して暮らせる社会」というものを実現して行きたいと考えているだけです。しかし、アンドロイドを完全に否定をしている訳ではありません。アンドロイドは、人間の役に立っている部分もありますので、あくまでも、現在人間と区別のつかない「旧型アンドロイド(・・・・・・・・)」に対して、規制をしていきましょうということを提唱しているのです』 『なるほど、至極全うな考え方だと思います。堂尊さんどうもありがとうございました』 『ありがとうございます』  この堂尊の言っていることは、確かに全うな考え方ではあった。  だからこそ、支持もされるし、信者も爆発的に増えて、それによって、莫大なお布施(ふせ)により、このAACという宗教法人も大きくなっていったのだ。  そして、あらゆるメディアを通じ、堂尊自体もその存在感を示し、国政選挙にも立候補できるまでに、世の中に対する影響が大きくなって来たんだと思う。  堂尊は、決して声を荒げたりせず、常に冷静に淡々と正論を述べている姿に、教祖の威厳さえ感じている若者も多かったんではないだろうか。  とても頭の切れる教祖だと俺は感じていた。  その日、そのニュースを見ていたマジカが、不安がって俺にこう言ってきた。 「ねぇ、ヒロシ。マジカも旧型アンドロイドだから、あの『アンドロイド狩り』みたいにバラバラにされちゃうのかな?」 「う、うん、そういう事態が発生する可能性はないことはない……」 「じゃあ、あまり出歩かない方がいいね」 「そうだね、当分、会社の送り迎えもしなくてもいいよ。危ないから」 「ありがとう、ヒロシ」 「それから、一人で買い物に出掛けるのも、やめた方がいいね」 「う、うん……。そうする……」 「欲しいものがあったら、僕が会社の帰りにでも買ってきてあげるよ。それと、あとはネットで注文して自宅まで届けてもらったりすれば、何とかなると思う」 「うん……。しばらくは、外出しないようにするね……」 「マジカには申し訳ないけど、そうしてもらった方がいいと思う」 「うん……」  マジカは寂しそうだった。  それも無理はない。  日々の買い物が出来ないばかりではなく、俺とのショッピングやデートなども出来ないことをマジカは残念がっているんだと思う。 『次のニュースも、また旧型アンドロイドに関するニュースです。ここのところ連日のように起きている旧型アンドロイドによる事件・事故による死傷者の数が、遂に100人を超えました。これにより、若者たちによる「アンドロイド狩りの会」の活動が益々活発になって来ています。昨日までに、この「アンドロイド狩り」による旧型アンドロイドの破壊された数も、128体と急増しています。警察関係者の話によると、どうもこの「アンドロイド狩りの会」は、アンドロイド販売会社、および、レンタル会社より、顧客リストを入手した可能性が高いとの見方を示しています。それにより、この顧客リストに載っている旧型アンドロイドを狙っているのではないかと推測しています』  俺はそのニュースに衝撃を受けた。  遂に、『アンドロイド狩りの会』が、顧客リストから、旧型アンドロイドを狙い始めてしまったのだ。  当然、マジカをレンタルした際に、俺の名前があるはずだから、俺自身の顧客データも入手された可能性が高い。  ただ、マジカは、俺がレンタルした会社によって、既に廃棄されていることにはなっている。  俺がマジカを完全に回収し、修理したことは、レンタル会社にも伝えてはない。  しかし、俺の住所を突き止めて、『アンドロイド狩りの会』のメンバが、確認しに来ることは十分に考えられる。  俺は、そのことを心配し、彼女にこう伝えた。 「マジカ、よく聞いてほしい」 「ん? なあに?」 「誰かが訪ねて来ても、決してドアを開けないでほしい」 「えっ? どうして?」 「『アンドロイド狩りの会』のメンバが、俺たちの住んでいるところを特定し、訪ねてくるかもしれないから、絶対にドアを開けないでほしいんだ」 「う、うん……。でも、ヒロシが帰ってくる時とか、宅配便の人とかも来るから、その時はどうしよう……」 「誰かが訪ねて来たら、まず、覗き窓からその人を特定して、大丈夫だったら、ドアを開けるようにしよう。俺も会社から帰宅する時間を毎日連絡するようにするから」 「うん、分かった。そうする……」  マジカは、自分の身に迫って来ている恐怖に怯えているようだった。  俺は、一度、バラバラになったマジカを組み立て修理はしているものの、マジカ自体を奪われてしまったら、もう二度とマジカに会うことが出来なくなる、そんな恐怖があった。  ――そんなある日、俺は会社から帰宅途中に、偶然アイツらがいよいよこの街にまで来ていることを目の当たりにしてしまった。  俺が、近くの公園の脇の道を歩いていると、そこには、アイツらがいた。  そう『アンドロイド狩りの会』と思われる若者グループだ。 「やっと、見つけたぜ。旧型ポンコツやろう」 「私は旧型アンドロイドではありません……」 「ウソをつくんじゃねぇ、コノヤロウ! こっちは、顧客リストからあんたが旧型アンドロイドっていうのは分かってんだ!」 「私は違います……」 「じゃあ、我らが敬愛する堂尊様が開発した、このスマホアプリで確かめてみるかな?」 『ピッ! ピ、ピ、ピッ……、旧型アンドロイド:AR-1FB型です』 「そら、決まりだな! お前は、旧型ポンコツやろうだ!」 「ち、違います……」 「じゃあ、あんたをこのスマホアプリでフリーズしてやろうか。それであんたが、旧型ポンコツやろうっていうのが分かるってもんだ!」 『ピッ! PU、PU、PU、PU、PU、PU……』 「やめてーっ! あああっ……」 『ヒュ~ン……』 「そらみろ、あんたは旧型ポンコツやろうだったじゃねぇかぁ~。ははははは……。おうおう、動けねぇみたいだぁ~」 「おい、早くポリが来る前にやっちまおうぜ!」 「よし、じゃあ、いっちょやったりますかぁ~! おりゃあーーっ!!」 『バンッ!!』 『ドサッ!』 「みんな、やっちまおうぜぇ!!」 「おうっ!!(おうっ!!)」 『ボコッ!! バンッ!! バァキッ!! ガンッ!! ドゴッ!! グワァン!!……』  それは、凄まじい状況だった。  彼らは、旧型アンドロイドを見つけて、狩りをするという、完全にゲーム感覚でこの『アンドロイド狩り』をしていたのだ。  俺は、その光景を目の当たりにし、背筋が凍りついた。 「そりゃあ!! あんたは役立たずの殺人ポンコツやろうなんだよ!!」 『ガンッ!! ボコッ!! バァキッ!! ダンッ!!……』 「へっ、へっ、へっ、へっ。無様な姿だなぁ~、ポンコツちゃんよぉ。はははははは……」  俺は、慌ててアパートへ向かった。  彼女が無性に心配になったからだ。  この凄まじいまでの『アンドロイド狩り』の光景を見て、俺は恐ろしくなってきた。  彼女に身の危険が迫っていると実感した。  それに、堂尊の開発した人間とアンドロイドを特定し、アンドロイドをスリープ状態にしてしまうというアプリの性能にも驚かされた。  このアプリを使えば、確実に旧型アンドロイドを特定でき、そこをピンポイントに狩ることが出来てしまう。  俺は、この堂尊の開発したアプリの能力の高さも同時に知ることとなった。  このままでは、彼女の身も危ない。  そう考えながら、アパートまで必死に走っていた。 『ピンポーン』 「はぁはぁはぁ、お、俺、ヒロシだよ。はぁはぁはぁ……」 『ガチャッ』 「ヒロシ、おかえり」 「大丈夫だった!? はぁはぁはぁ」 「うん、大丈夫だったけど、どうしたのそんなに慌てて?」 「さっき、近くの公園で、旧型アンドロイドが狩られているところを見たんだ……。はぁはぁ……」 「『アンドロイド狩りの会』の人たち?」 「多分、そうだと思う……。堂尊の開発したスマホアプリで特定して、スリープ状態にしてから、ボコボコにしてた……」 「えっ、ボコボコに……」 「う、うん……。完全にバラバラになるまでやつら、破壊してた……」 「マジカ、こわい……」 「もうやつらは、この近くまで来ているから、絶対に外に出ちゃダメだよ」 「うん、分かった。そうする……」 「でも、マジカが無事で良かった……」 「ヒロシ~……、ううぅ……」  マジカは、その恐怖に怯えて、震えるように泣いていた。  俺はマジカを強く抱き寄せると、絶対に彼女を守ってやると心に誓った。 「俺が、マジカを絶対に守るから……。やつらから、絶対に守るから……」
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