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【 第三話： アンドロイド規制法 】
――そして、あの男が遂に動き出した。
そう、あの宗教法人：ＡＡＣの代表兼教祖でもある『堂尊』が、国政選挙に正式に立候補を表明したのだ。
そのニュースは、『アンドロイドの殺傷事件』や『アンドロイド狩り』と共に、報じられることが多くなった。
予想はしていたものの、この世の中の動きを確実に捉えている、非常に頭の切れる『堂尊』の存在は、俺たちにとっても非常に大きいものだった。
俺は、堂尊のそんな一挙手一投足に、一抹の不安を抱えていた。
『続いてのニュースです。昨夜また旧型アンドロイドを狙った「アンドロイド狩り」が都内で発生しました。これで今月に入り既に２００体を超える旧型アンドロイドが、若者グループ「アンドロイド狩りの会」によって破壊されたことになります。これらの動きについて、本日のゲストの堂尊さんはどのように見ていますでしょうか？』
『はい。これらの一連の破壊行為は、やはり、「旧型アンドロイドによる大量殺人事件」をきっかけに急増したと考えられます。若者たちの「旧型アンドロイド」への不信感がそういう行動に走らせている原因になっているのだと思います』
『そうですか。そんな中で、堂尊さんは、次の国政選挙に立候補を表明されましたが、これら一連の問題をどう解決していこうとお考えでしょうか？』
『はい。私はこの問題の解決方法は、やはり国レベルにおける法律をしっかりと整備していく必要があると考えています』
『国レベルの法律といいますと、具体的にどのようなものが必要とお考えなんでしょうか？』
『私は、この国政選挙で当選した暁には、「アンドロイド規制法」を整備することをお約束致します』
『「アンドロイド規制法」ですか……？ それはどのような法律なんでしょうか？』
『はい。ではこちらのフリップをご覧下さい』
『あ～、いくつか書いてありますね。こちらを説明して頂けますか？』
『はい。まずは、「アンドロイド規制法」の目的と必要性をお話致します。昨今の旧型アンドロイドによる殺傷事件が多数発生している中で、「アンドロイド狩り」という別の新たな問題が発生して来ております。その世の中の流れから、国レベルでのアンドロイドの管理が必要と考えています』
『国レベルでのアンドロイドの管理が必要ということですか？』
『はい。そう考えます。それにより、全てのアンドロイドに「ＩＤ」を振り、固体識別できるようにし、「アンドロイドナンバー制度」というものを策定します』
『「アンドロイドナンバー制度」ですか？』
『はい。その通りです。この制度の策定により、全てのアンドロイドを国が管理できます。そうすることによって、こちらのフリップにもあります通り、様々な法律を作って、国民の皆様が安心してアンドロイドと生活できるようにしていくと言うものになります』
『それが、こちらのフリップに書いてあるものになるんですね？』
『はい』
＜アンドロイド規制法＞
①アンドロイドナンバー制度（全アンドロイドのＩＤ化）
②人とアンドロイドの区別（人・アンドロイド特定アプリ）
③アンドロイドの固体識別（アンドロイド固体識別アプリ）
④アンドロイドの位置特定（アンドロイド・サーチアプリ）
⑤旧型アンドロイドの回収・自主返納制度／新型量産タイプへの無料交換
⑥旧型アンドロイド所持の罰則規制
⑦アンドロイド制御装置の義務化
『ズラッといくつか並んでいますが、①は先ほど少しご説明のありました「アンドロイドナンバー制度」ですね。②と③については、堂尊さんが代表を務めていらっしゃる「宗教法人：ＡＡＣ」が開発したスマホアプリのことでよろしいでしょうか？』
『はい、その通りです。④については、私どもが今開発中の新しいスマホアプリで、地図上にアンドロイドが今どこにいるのかを探索できるアプリ「アンドロイド・サーチ」になります』
『こちらはどういう目的なんでしょうか？』
『はい。こちらは、国で管理されているアンドロイドを追跡したり、国民の皆様が安心して生活して頂けるように、この「アンドロイド・サーチ」を使って地図上で、今どこにアンドロイドがあるのかを瞬時に見られるようにするシステムになっています。ですので、例えば、今回のようなアンドロイドによる殺人事件が発生した時には、すぐに地図上で特定し捕獲することが可能になります。また、国民の皆様も危険なアンドロイドには近づかないなどの対策がこのアプリにて可能になります』
『ああ、なるほど。それは便利ですね。しかし、いち宗教団体の作成したスマホアプリを国が使うというのは、問題にはならないのでしょうか？』
『もちろん、私が国会議員に当選すれば、これら②～④のシステムを全て無償で、国に提供する予定です』
『国に提供ですか？ つまり国民がお金を払ったり、国の税金が投入されるということは一切ないということですね？』
『はい、その通りです。国民の皆様のご負担は一切ございません。私ども宗教団体からの寄付でございます』
『なるほど、太っ腹ですね。それでは、⑤の「旧型アンドロイドの回収と自主返納」というのは、どういう制度でしょうか？』
『これは、旧型のアンドロイドを国が回収し、自主返納して頂いた方には、最新の量産タイプのアンドロイド、つまりＩＤの振られた新型アンドロイドに無料交換するという制度になります。この費用を国が負担するというものになります』
『はぁ～、そういうことですか～。つまり、これで旧型から新型にアンドロイド全て変えて、国がそれを全て管理するということですね？』
『はい、その通りです』
『では、次に⑥の「旧型アンドロイド所持の罰則規制」というのは、どういう規制になるんでしょうか？』
『はい。こちらは、旧型アンドロイドを所持している所有者への罰則規制となります。ＩＤ登録のない旧型アンドロイドを所持している人には、一定期間の法的な拘束と、旧型アンドロイドの強制的な没収を国が行います。それにより、国民の皆様のため、安心・安全な新型アンドロイドへのスムーズな移行が可能となるのです』
『なるほど、すばらしいですね。最後に⑦の「アンドロイド制御装置の義務化」とは何ですか？』
『こちらは、新型アンドロイドを製造するメーカーを国が認定した上で、その新型アンドロイド内に制御装置を設置することを製造メーカーに対して義務化したものです。これにより、暴走する可能性のあるアンドロイドを国が制御できるようになるのです。そうすることによって、昨今発生しております痛ましい「アンドロイドによる殺傷事件」などを食い止めることができるようになると考えています』
『はぁ～、何かあった時のための最終手段という訳ですね。分かりました。これまでご説明頂きましたこれらの「アンドロイド規制法」を掲げて、国政選挙に臨むということですね？』
『はい、そう考えております』
俺は、このニュースに、『堂尊』の緻密に考えられたある思いが裏にあるのではないかと思った。
表面上では、国民に対する安心・安全を謳っているが、その裏には、何かしらの目的があると感じた。
俺は――、
『旧型アンドロイドの完全なる排除』
これが、堂尊の最終目的なのではないかと推測した。
俺は、マジカに間近に迫って来ている、底知れぬ恐怖を感じていた。
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