33人が本棚に入れています
本棚に追加
【 第四話: 教祖:堂尊の野望 】
この『堂尊』が掲げた『アンドロイド規制法案』は、瞬く間にマスコミによって全国に知れ渡り、宗教法人:AACの信者も急激に増えていき、全国へ支部が広がっていった。
国政に与える影響と国民に与えた影響は、凄まじかった。
一気に堂尊の株は上がり、国民の無作為抽出による事前調査でも、堂尊が国政選挙で勝利する確率が圧倒的に高い数字を示していた。
連日、堂尊の冷静な訴えは、若者たちを中心に広まっていき、街頭演説をすれば、数千人規模の観衆が集まるまでになっていた。
『今、世間では「アンドロイドによる殺傷事件」や「アンドロイド狩り」などの悲しい、痛ましい事件が連日のように発生しています。その中で、私たちの生活の安全が今、脅かされている状況にあります。国民の皆様が安心して、安全な生活を送って頂けるように、この「アンドロイド規制法」を一刻も早く制定し、危険のない安心・安全な世の中にしていくことを、私は皆様にお約束致します』
『わぁーーーーっ!! 堂~尊! 堂~尊! 堂~尊! ……』
『堂尊フィーバー』は凄まじかった。
堂尊の開発したスマホアプリも、連日のように発生している『アンドロイドによる殺傷事件』や『アンドロイド狩り』を受けて、ダウンロード数も一気に増え、急激に国民に広まった。
また、新しく開発された地図上でアンドロイドの位置が特定できる『アンドロイド・サーチ』のリリースもされ、これによって、ゲーム感覚でアンドロイドを探す若者が急増した。
若者たちは挙って、堂尊の宗教団体:AACに入信し、『堂尊様』という言葉が、いつしか流行語になっていった。
また、その流行語にあやかって、女子中高生に『堂尊様グッズ』なるものまで出始めて、一気に堂尊の名は日本全国に知れ渡った。
これらの追い風を受け、『堂尊フィーバー』は益々過熱化し、
――遂に、堂尊は国政選挙で大勝利を収めた。
また、堂尊だけではなく、堂尊が代表兼教祖を務める宗教団体:AACの幹部たちも同様に、選挙に立候補し当選を果たし、『AAC党』まで結成してしまったのだ。
このニュースは、選挙速報や翌朝の新聞・雑誌・テレビ番組でも取り上げられ、日本国民に大きな衝撃を与えた。
『堂尊さん、当選おめでとうございます。圧倒的な大勝利という形でご当選されましたが、今の率直なお気持ちをお聞かせ下さい』
『どうもありがとうございます。これも国民の皆様のご支援のお陰だと思っております』
『堂尊さんの宗教団体の幹部の方々も同時に当選されていますが、噂では、「AAC党」を結成するとまで報じられておりますが、本当でしょうか?』
『はい、そのように考えております』
『今後、国会議員としてどのような活動をしていかれるのでしょうか?』
『はい。選挙前に掲げました「マニュフェスト」通り、「アンドロイド規制法」の制定に尽力していきたいと思っております』
『いよいよ、この法案を国会に出されるということですね?』
『はい。国民の皆様に安心で、安全な生活を送って頂けるようにする法律となりますので、一刻も早い法整備をしたいと考えております』
堂尊は、当選後もあくまで冷静だった。
その落ち着いた態度は、宗教法人の教祖だけに留まらず、国会議員の誠実で実行力のある人柄として、国民には映っていたようだ。
この堂尊が、他の候補に大差をつけて当選したことに、俺は正直焦っていた。
マジカが旧型アンドロイドであるために、この『アンドロイド規制法』が成立してしまうと、彼女は国に没収されてしまうからだ。
また、俺が立ち上げた『旧型アンドロイドの修理ベンチャー』への影響も避けられない状況になる。
俺は悩んでいた。
「ねぇ、ヒロシ。これから私たちどうなっちゃうの?」
「うん……、俺にも分からない……」
「マジカ、国に回収されちゃうの?」
「このまま、堂尊の『アンドロイド規制法案』が国会を通過すれば、そうなる可能性が高い……」
「もし、マジカが国に回収されちゃったら、その後マジカはどうなるの?」
「恐らくは、国によって、破壊されることになると思う……」
「破壊……? マジカいや! ヒロシと離れてもう会えないなんて、マジカいや!」
「大丈夫、俺がマジカを最後まで守るから。だから、安心して」
「うぅぅ……」
「俺が守るから……、マジカを守るから……」
マジカは、堂尊の掲げる『アンドロイド規制法』を恐れていた。
俺も、この法律が施行されれば、俺たちの身の危険は避けられないと考えていた。
そんな時、やつらは、ついに俺たちの家をつきとめて、やってきた。
『ピンポーン』
「んっ? こんな夜遅くに、誰だろう……?」
最初のコメントを投稿しよう!