召喚

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召喚

 俺は今おかしな状況に遭遇している。 「あぁ、勇者様方。召喚に答えていただきありがとうございます。どうか魔王を倒して我が国をお救い下さい!」  俺たちの目の前でしゃべっているのは金髪のいかにも姫さんといった格好をした女性だ。  まあ俺が遭遇しているのはいわゆる勇者召喚ってやつだ。  それ自体もおかしな状況だが実際はもっとおかしな状況なんだ。  それを伝えるには俺について教えておこう。俺の名はカオス・クリムゾン、現役の魔王だ。俺は元々普通の高校生だった。まあ、いろいろあって転生したってわけだ。転生したのは魔王の息子。それから順調に成長して俺も魔王になった。  そう、おかしな状況というのは魔王である俺が勇者召喚に巻き込まれているということだ。魔族だが普段は人と同じ姿だから今のところ気づかれていない。 「我が国は現在魔王の侵略をうけております。本来でしたら周辺国に協力を要請して魔王を退治しないといけないのですが……周辺国は魔王を退治するのを断ってきたのです。そればかりか魔王に与して我が国に攻めてきたのです。さすがの我が国も魔王と周辺国による侵略ではどうしようもありませんでした。このままでは滅びることになるでしょう。そのため最後の手段として勇者召喚を行ったのです」  いろいろと言いたいが勇者召喚は誘拐だから禁止にするって国際会議で決めたはずなんだがな…… 「そんなの酷い! 分かりました! 俺たちがこの国を救ってみせます!」 って、オイッ! 簡単に信じてるやつがいるよ。  というかよく見たら20人くらいいるが半分くらいは大人だし、その大人が真っ先に賛同してるよ。他にも半分くらいの人が何かに期待しているような顔をしているな。……大人は半分以上が賛同してるっぽいな。制服着てるから高校生だろうけど彼らのほうが冷静に考えてるっぽいな。  ん? なんかあそこのOLにすごい見られてるな。  俺だけ高校生くらいの見た目なのに制服を着てないからかな? 「ありがとうございます! 勇者様方に感謝をいたします。それではまずは父である国王に挨拶をしていただきます」  移動しだしたな。一応もう少し探るか。  案内されたのはやっぱり謁見の間か。これでもかというくらい宝石などで装飾された玉座に座っていたのは豚のような男。……前に見たときよりも豚になってるな。 「よく来たな、勇者たちよ。我がこの国、ゴルドピグ王国の王であるブーダ・フト・ゴルドピグである。お主たちを召喚したのが第一王女である」 「ルー・フト・ゴルドピグです。改めてよろしくお願いいたします」 「それではまずはお主たちの能力を調べる。ハラグロー、測定器を」 「はっ!」  ハラグローと呼ばれた宰相が水晶型の測定器を持って来たな。  さて、どうするか……  なんだか面倒になってきたからそろそろ止めるかな? 「まずはあなたから。水晶に触れると自身の能力が見えると思うのでそれを読み上げていただけますか?」 他の奴らの能力見てからにするか。 小田切 正義(25)♂ 称号……異世界の勇者 スキル  ・聖剣術Ⅰ ・剣術Ⅱ etc. 真っ先に賛同した男は聖剣召喚を持ってるのか珍しいな。 「次はあなたがお願いいたします」  2番目が俺かよ。仕方ない、あいつへの連絡は済んだからそろそろ正体を明かすか。 「姫さん、1ついいか?」 「姫様に無礼だぞ!」 「いいですよ。なんでしょうか?」 「勇者召喚に何人使った?」 「「「「「っ!?」」」」」  その瞬間、召喚された奴ら以外の謁見の間の空気が変わり俺の周りを兵士たちが取り囲んだ。 「……あなたは何者ですか?」 「はっはっはっ、まあ俺は普段は姿を変えているからな。……これで分かるか?」  俺は姿をいつもの甲冑に変える。 「貴様は魔王! なぜここに!?」 「そんなの俺も知らねぇよ。それにしてもこんなことまでやってたのかよ。誘拐だぞ」 「それは貴様らが侵略してきたからだろ!」 「ああ? それもお前らが国際法に違反しまくったからだろ」 「魔王め!覚悟!」  そういって1人の兵士が斬りかかってきたが…… 「ここには少年少女もいるからな。手加減してやるよ。ふっ!」  俺はその兵士の腹を一発殴り気絶させる。 「なっ!? くっ、てっ敵は1人だ! 全員でやれば!」 「遅いぜ」  そういって俺は召喚されたやつら以外の国王や姫さんを含めた敵を気絶させた。 「さて、お前たちはどうする? 俺についてくるか? それともこいつらの言いなりになるか?」 「「「「「っ!?」」」」」  まあ、迷うよな。 「信じるかどうかはお前たちの勝手だが俺の言い分を言っておくよ。こいつらはいろいろとヤバいことをやっていてな。例えば、世界中で奴隷は禁止されているのに奴隷狩りを行っていたり、その奴隷のなかに他国の王族もいたな。それに人体実験も行ってる。この前の戦場ではキメラにされた人たちもいた。その他にもいろいろなことを行っているやつらだ」 「そんなの信用出来るか! この人たちを傷つけやがって!」  さっきの正義くんか……  半分くらいのやつが頷いてるな。 「だから信じないならいいって。俺は別にお前たちを連れて帰らなくてもいいんだぜ」 まあ、来ないか…… 「私は信じるわ」 ん? さっきのOLか。 「なっ!? 加奈っ!? 正気か!」  正義くんの知り合いみたいだな。ん? 加奈……? 「小田切さん、下の名前で呼ばないで下さい。それに私は正気です」 なんか頭に引っかかるな? 「こんなやつについていくなんて!」 「誘拐した人たちよりもこの人の方が信用出来たので」 ん~? なんだったかな? 「俺たちも連れていって下さい!」 「私たちも!」 「私もお願いします」 加奈さんにつられて言い出してくれた。加奈さんも含めて11人か…… 「分かった、君たちは連れていこう」 「それでどうやって行くんですか?」 「待てっ!」 とりあえず変なことをさせないようにこいつらは動けないようにするか。 「なっ!? 体が動かない!」 「ホントだ! 動かない!」 「加奈ちゃん、行ったらダメだよ!」 「加奈さん、待ってください!」 「加奈、行くな!」 うるさいな…… 「こいつらは動けなくしたからとりあえずそこに集まってくれ」 「ここですか?」 「ああ、今から君たちを転移させる。向こうには俺の部下がいるからな。それじゃあいくぞ」  転移!  ……行ったか。 「加奈をどこにやった!」 「うるさいな。仕方ないがこれをやるよ」  俺は人数分のペンダントを渡す。 「これは君たちを1度だけ攻撃から守ってくれるペンダントだ。もし気が変わったならこの国から西に向かうといい」 「そんなの信用出来るか!」 「じゃあな」  そうして俺はテレポートで自分の国へ戻った。
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