3.霧の箱根ターンパイクの場合

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 しかしその車が駐車場を出ようとした瞬間、茉央はさらなる恐怖に叩き落されることになる。 「これ……中央線見えないよね。」  箱根ターンパイクは有料の観光道路で、バイクのツーリングに人気の15キロ程の道だ。工場は、小田原側からその道を入り、湯河原側の出口の近くにある。行きは料金所を入ってから20分で着いた。同じ道を小田原側に戻ろうと右折したのだが、その瞬間道幅すらわからなくなった。  車の前、フロントライトが届いているのも体感3メートル先までくらい。つまり、対向車線から車が来たとしても、あと3メートルの位置にならないとその存在に気づけない。これはかなり、危ない。 「た、龍晶、やっぱり、危ないよ。帰ろう?田中さんとこ。」  やめてほしい。ほんとに怖い。ホラーとかじゃなく、もはや物理的に恐い。路肩に乗り上げる、崖から転落、衝突事故、何でも起こりうる。 「いや行ける。大丈夫。」 「……だって。」  こちらの不安をわかってくれない呑気な返事に、イライラさえしてくる。  龍晶はほぼアクセルを踏まず、クリープ現象だけでノロノロと進む。その運転方法だけは、正解だ。これでスピードを出されたらたまったもんじゃない。  遠くから、パーっ、パーっ、とクラクションの音が断続的にして、近づいてくるのがわかる。 「な、なにっ……!?」 「なるほど。」 「なに?」 「対向車線、つまり俺らみたいな車に、存在を知らせてくれてるんだと思う。慣れてる車だな。」  龍晶は一度車を止めて、パーッパーッと、返事をするようにクラクションを鳴らした。すると近づいていたクラクションの音が止んで、代わりに眩しいビームライトとともに大きなトラックが現れた。  すれ違いざまに、トラックの運転手が窓を開けてこちらに何かを叫ぶ。 「こっから5kmくらい先、そっちの路線の路肩に事故車両止まってるから注意してくださいねー!!」 「うーっす。」  龍晶が窓から手を出し、トラックの運転手に向かって、彼にしては愛想よく返事をする。  トラックが過ぎ去った空間には一瞬だけ澄んだ暗闇が浮かび上がり、そしてまた濃い霧がその空間をいそいそと埋める。  その瞬間、さっきから薄々感じていた違和感が確信に変わり、茉央は思わずそれを口にした。 「龍晶………楽しんで無い?」 「バレた?」  横顔で微かに上がる、口角。  まさか。空気が読めないにもほどがある。  これまで流され続けた自分も悪いが、訳わからず説明もしないこの男だって、十分に悪い。 「バレた?じゃないっっ!!こっちは……こっちは訳わからなくて、怖いんだからねっっ!!」  茉央はとうとう、半泣きで怒鳴ってしまった。
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