prologue

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「これって…誰の落し物?」 カズが「俺」に気が付いた瞬間だった。 自分の存在を消され、空しさを感じながらもその身体に翻弄させられている まさにその最中だった。 その声を、「どこか遠く」にではなく、耳元で、あるべき温度をもって感じた。 あまりにも突然で、驚いた。 俺の胸に残った赤い痕。 カズの冷たい指先がそれに触れる。 その数時間前、ミキがつけた痕だ。 その時はミキをひどく詰って背を向けた。 その後、カズに会いに行くことを知っていてそんなことをしたからだ。 でも、 どうせ「どこか遠くへ行ってしまう」カズに、 それを気付かれることなど無いだろうと半ばヤケクソだった。 だからその小さな痕を見つけた事だけでも驚きだったのに、 その後のカズがいつもと違うことにひどくうろたえた。 他の女の存在に気付き、怒り拒むどころか、 自ら身体を開放し俺を誘(いざな)う。 そこから最後まで、 俺を見る瞳も、俺を呼ぶ声も、俺を包み込むその身体の奥も、 一度も離れることなく俺と一緒に居た。 その時初めて、 「カズ」が「俺」を受け入れたと感じた。 全身が震えた。 泣いてしまいそうだった。 俺が欲しかった、カズ。 その日、ようやく手に入れた。
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