prologue

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代理店からの依頼で受けた仕事の現場で、カズと顔を合わせた。 スタイリスト佐々木サヤカのアシスタントとして同行している。 ある企業の広告写真で、有名タレントがイメージキャラクターに起用されている。 パンフレット用とポスター用の数ショット分を撮る予定だ。 「ちょっと!これ、お願いしてたのと違うじゃない!」 まただ。 佐々木サヤカは露骨に嫌な顔をして見せ、カズにそう言った。 「いえ、こっちでいいんです。」 なにやら揉めている様子だ。 感情的に話し続ける佐々木サヤカに対して、 淡々と冷静に、それでも一歩も引かず説得しているカズ。 撮影の準備が整うまでに暫く時間がかかった。 「コウタ君、ごめん。待たせちゃって。」 やっとスタンバイすると、佐々木サヤカが俺の背後にやってきてそう言った。 カズはまだタレントの傍でしつこくスタイリングをチェックしている。 「カズが…言うこと聞いてくれないのよね、まったく。」 そう言いながらも、どこか喜んでるように見える。 「こだわりが強くて。」 腕を組んで笑いながら俺を横目に見た。 「こだわりか。あるんすかね、あんまり感じたことないけど。」 俺はわざと気のない調子で答えた。 「感じさせないくせに、じんわり迫って来るのよね、カズは。不思議。でも面白いわ。」 その台詞を置いて俺の傍を離れた。 本当に不思議だ。そして面白い。 身近な人間は、カズのその深さみたいなものを感じている。勿論、俺も含めて。 カズを見つめ続けていると、次々に気になることが湧き出てくる。 それとともに想う気持ちが増していく。 そして離せなくなっていく。 だから。 過ちを繰り返す。 間違いだとわかっていながら。
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