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個展を終えた後の俺は不思議と何もかもが吹っ切れたような清々しい気持ちで日々を過ごしていた。
仕事にも意欲的に向かい、生活も充実している。しっかり睡眠を取り、自炊でバランスよく食事をする。
適度な運動も心掛け、体調管理にも事欠かない。
生活を正すことですべてがクリアになってくる。
「男ばっかで鍋なんて。コウタさんともあろうおカタが、素敵なおネエさんの一人や二人、調達できないんですかあ?」
アシスタントのシゲが不満そうにそう言って俺を見る。今日は個展の打ち上げと遅めの新年会を兼ねて、という名目で俺の家での鍋会を開催。
二人のアシスタントと勇次を招いて手料理を振る舞う家飲みだ。
軟骨を出刃包丁で細かく叩き鶏ミンチに加え、生姜、大蒜、味噌、醤油、ごま油で味をつけ、卵と片栗粉をつなぎに合わせ捏ね、
それを野菜を出汁で煮立てた鍋にスプーンで落とし入れる、つみれ鍋。
「嫌なら帰れ。この楽しさがわかんねえようなガキはここに居なくていいぜ。」
俺の言葉は無視で箸を構えたまま鍋の中を凝視しているシゲ。横から伸びた手に程よく火の通った「つみれ」を浚われる。
「おい、タケル!そのつみれ、俺んだって!取んなよ!」
「いやいや、これは僕のですよ。コウタさんが鍋に入れた時からずっと見守ってたんですから。」
タケルが飄々とした素振りでそれを口に入れる。
「んがっつ!!あぢいい!」
「ざまあ!」
二人のやり取りを真ん中で見ていた勇次が困った顔で笑う。
「……平和……ですなあ。」
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