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その写真をロケーション撮影しようと言い出したのはカズだ。遅れてそのミーティングにやってきたカズは嬉しそうな表情で話し出す。 「その海岸、すぐ近くにバンガローの貸別荘があって、そこもすごく素敵なの。そこでも雰囲気ある写真撮れると思うんだ。」 「じゃあ、その別荘予約しときましょう。万が一雨降っても中止しなくていけそうですね。」 「雨は雨で、海辺でも面白い画撮れると思うぜ。何の制約も無いんだし、その時の状況で臨機応変にやろう。」 「さすが、コウタ先生。でも大丈夫。アタシ、晴れ女だから絶対雨降らせないよ。」 「なんだよ、その根拠のないヘンな自信は。」 カズが笑っていて、自然に会話ができて、これはこれで願ってもない状況だ、と思う。 これが1年前なら、仕事で顔を合わせてもギクシャクした関係だった。 きっとこの先も離れないで続く俺たちの縁は、このくらいの距離感がいいのかもしれない。 「距離を置こう」と言い出して離れたのは俺だ。そのせいでカズには付き合っている時とはまた別の苦しい思いをさせた。すべては自分の我儘に始まったことなのに。 だがその距離のおかげで今俺達は何にも惑わされることなく『自分』を生きている。 だから、これでいい。これが、ベストだ。
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