prologue

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カズはワインボトルとグラス2つを持ってキッチンから戻ってきた。 「なんだよ、おまえも飲むの?」 「あたりまえじゃん。アタシのワインよ。」 いや、それ、俺がこないだ持ってきたヤツだし。 「ビール全部飲んだっていってなかった?」 「あんなの大した量じゃないよ。」 いや、さっき、空き缶確認したが500ミリ缶3本空いてたし。 「つか、寝る…んじゃねーの?」 「……ああもう、ごちゃごちゃうるさい。そんな言うなら飲ませない。」 これだ。 冗談ふうだがわりと本気だ。 ていうか、本気の酒飲みだ。 女が本気で酒を飲む姿を初めて見たのはカズが最初だ。 女にとって酒は「男の気を引く小道具」に過ぎないと思い込んでいた俺は、 初めてサシで飲んだとき、ちょっとしたショックを与えられた。 とにかく飲む。オヤジのように。 熱く仕事の話をする。オヤジのように。 そこに、 「頬を赤らめながらほろ酔い顔で微笑む女子」的姿など 微塵も無い。 一切無い。 隣の席の見知らぬ客や店の人間を巻き込んでケラケラと笑い、心底楽しそうに飲む。 俺を目の前に酒を飲んで「女」を感じさせなかった女。 肩透かしを喰らったような、妙な気分だった。 学生の頃は、たぶんそんなに飲めるほうじゃなかったと思う。 というか、ほとんど下戸だったはずだ。 飲んで酔っ払った姿など見た記憶はない。 逆に、こんなに飲んで顔色ひとつ変えないっていうのもどうかと思うが。 でも、これが、俺がカズに興味を持つキッカケになったのは確かだ。
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