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カズは、とにかく手間と時間がかかる。
すぐに受け入れ準備が整う女とはワケが違う。
嫌がっているふうでもないくせに
まったく期待などないかのように上の空でいる。
それが逆に俺の神経を逆撫でする。バカにしやがって、と。
そのくせ、身体が気が付き始めると我を忘れる。
意識がどこか遠くへ行ってしまう。
ちょっと怖くなるほどに。
自分を今抱いているのが俺だということを忘れてはいないか不安になって、
最中にわざと何度も目を合わせる。
そして何度も俺の名前を呼ばせる。
素直にそれに従い繰り返し俺を呼ぶが、
ちゃんとわかっているのか疑わしく感じるほど、
1人の世界だ。
でも。
「コウタ…?」
突然、「カズ」がその身体に戻ってきた。
その声は紛れもなく「俺」を呼んでいる。
「ここに来る前…どこにいたの?」
俺の首筋に唇を押し当てながら、耳の後ろ辺りの匂いを嗅いでいる。
間違いない。
気が付いた。
スイッチが入る。
何度もこうしてカズを傷つける。
心に痛みを与えることで、カズが俺の存在に気付く。
それを感じることで、俺は、カズの俺に対する微弱な愛を弄る。
ひどく歪んだ愛情だ。
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