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 さっきの女の子が立っていた。 「おそうじしてるの?」  男は女の子の背後を見た。先ほど嫌悪感を示した母親の姿がない。  きらきらとしている。澱みや濁りのない目がまぶしくて、男は顔を背けた。 「花菜もそうじ係だよ」  真っ直ぐ向き合うのは憚られ、男は背中のまんま声を出した。 「……そうかい。えらいな。……お嬢ちゃんよ、おじさんと喋っちゃダメって言われたろ?」 「そうじする人は心がきれいになりますよーって井手先生が言うから、あたしね、手を挙げたの」 「…………そうか」  不思議と、男は女の子の頭を撫でたくなった。そうだぞ、と。本当にそうだぞ、と。  男が振り向くと、母親がこちらに飛んで向かってきていた。まるで我が子が猛獣に襲われているようにだ。 「……お嬢ちゃん、怒られるぞ?」 「うん。怒られるから、じゃあ、ばいばい!」  女の子が手を振った。  男は何十年か振りに、手を振った。よほど小さく手を振った。女の子は母親に手を掴まれ、ぐるんと背中を向いた。風がとても冷たかった。
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