97人が本棚に入れています
本棚に追加
数日後、第一公園には役所の人間と非営利法人の者が集った。
ベンチに佇む男に声をかけ、男は曖昧に首を縦に振っていた。
町内会の者は姿を見せなかった。ただ一人、若い父親がその後ろで様子を見ていた。ある程度の話を終えたか、役所の者たちは第一公園を後にした。
男はベンチで頭を垂れ、白い息を長く吐いていた。
「あの……。わたしはこの町内会の者です。娘がね、あなたはゴミを拾い集めてるんじゃなくて、掃除してるんだって言うものですから……」
若い父親が男に話しかけた。男はゆっくりと顔を上げ、その若い父親の顔を拝んだ。
「…………あの娘の父親かよ。なんだ、俺なんかと話してたら嫁さんにどやされないか」
へへへ、と男は髭についた鼻水を拭いた。
「いえ、そんなのは良いんです。娘の言うことが本当だとしたら、あなたの名誉のために聞いておきたくて……」
男はもう一度、まじまじと若い父親を見た。ああ、あの子はこの父親に似たのだなと思った。心が和らいだ。
男はリアカーを見た。小さな人形をアームにくくっている。「きれいにしてくれてるお礼」だと、いただいたものだ。
「……名誉……そんなもん。俺ぁ、ゴミ拾って食べてると思われても、掃除してるって思われても、どっちでもいいんだ。そんなことをああだこうだ言える人様じゃねえんだよ。でもよ、あんたのお嬢ちゃんは良い子だよ。あんたのお嬢ちゃんに言っておいてくれよ。俺ぁ、あんたのお嬢ちゃんという天使に会えたぜ。それだけでゴミ拾った価値があるってもんだ。それでよ、お嬢ちゃんにこれだけはあんたから伝えてくれ。こんなゴミみたいな人間が、掃除したら天使に会えたんだ。お嬢ちゃんは学校で掃除係がんばったらよ、神様が宝物どっさり抱えて挨拶に来てくれるんじゃねえかってよ」
男は嬉しそうに唾を飛ばして笑った。そのまま立ち上がり、壊れたリアカーを押し始めた。
「どちらへ?」
「知らねえよ。まあ、迷惑かけちゃいけねえ」
男は笑って、暗くなった公園の外へと出ていった。
最初のコメントを投稿しよう!