重たいセロハンテープ

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重たいセロハンテープ

 年長組の頃。  先生にセロハンテープを渡された。 「これ、ひよこ組(赤ちゃんクラス)に返してきてね」  私は困った。  しゃべれないのに、どうしよう、と。  ドアを開ける前にノックして、「失礼します」と声をかけないといけないんだろうな。  みんな2歳3歳の子たちだから、私、一番おねえさんだから、おねえさんらしく声かけしないといけないんだろうな。  …できないよ。  どうしよう、どうしよう、どうしよう……  セロハンテープは小さな手にずっしり重たく、私はセロハンテープを持ったまま、ひよこ組の教室の前でひとり、佇んでいた。  やがて年長組の先生が、あまりに帰りの遅い私が気になったのだろうー…様子を見に来た。  当然だけど、叱られた。  セロハンテープは先生が、ひよこ組に返しに行った。
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