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縁側 短編/完結
「ノスタルジー」
郷愁に駆られる感覚のことを指す言葉。
広く世間では、筆舌に尽くしがたい情緒を伝達する際に、意味を問わずこぞって用いられる。この言葉を発音するとそれらしく聞こえてしまのだから、まことに便利な言葉だ。
盛夏の夜長、縁側に腰掛ける裕也の心象は、まさに「ノスタルジー」な気分であろう。湿り気を帯びた夏の空気がまとわり付けば、ささやかな涼風が吹き抜け、サラリと肌を撫でる。背後から伸びる線香の煙は、ほのかな甘い香りを残して闇夜に溶けていく。
30歳の夏、突然に舞い込んだ祖母の訃報。
裕也は「祖母の死」という事実よりも、訃報に対する自分自身の反応に驚きを覚えた。
あまり、ショックでは無い。
生家であるこの家を訪れ、祖母に顔を合わせたのは6年も前の事。積み上げられる毎日と、流れ行く時の洪水は、裕也の記憶から祖母の面影を奪い去っていたのだ。
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