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「いやはや、本当に皮肉なもんですな」
声のする方を振り返ると、60を過ぎているであろう初老の男の姿があった。仏壇に合掌を繰り返すと、湯飲みを片手に裕也の方へ向き直った。
「あの、失礼ですが、どなた様でしょうか」
「あ、ほら、君のお祖父さんの弟の、嫁さんの兄、に当たるのかな。ああ、もう分かんねえや」
親戚とは、かくも他人に近い存在だな、裕也は心の中で苦笑した。
「いやそれよりさ、皮肉なもんだとは思わないか?」
「何が、でしょうか」
「いつもはがらんとしたこの家がさ、婆さん死んじまった夜に、こんなに賑やかになるなんてな」
裕也は、縁側の夜風で汗ばんできた肌を手扇子で扇ぎ始めた。
そして、年老いた祖父母がこの家で刻み続けた、孤独で長い長い時間を考えてみた。
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