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水野は入浴後こっそりと相川のキッチンに立つ姿を見ていたが、手馴れた手つきで料理をしている姿は、まるで手術をしている際のような鮮やかな動きだった。
そしてさも今出てきたような動きでキッチンへ行くと
「もう少しで出来るからな。髪、ちゃんと乾かせよ。風邪ひくぞ」
と、濡れた水野の髪をクシャッと撫でた。その手の心地良さに水野はぼんやりとしながら髪を乾かした後、食卓に並んだ料理を見て驚いた。
鯖の塩焼きに卵焼き、少量のおろしがついて、ひじきと玉ねぎと胡瓜のツナマヨ合えのサラダ。豆腐と油揚げのお味噌汁。それに暖かそうなお米がふんわりとよそわれていた。
「出来たぞ。」
「うわーっ美味しそうですね!」
「あと煮物作っといたから、明日食え。」
「え!本当ですか!ありがとうございます。いただきます!」
食してみるとなんとも美味しく、優しい味がした。
「あー…美味しいです。すごく美味しいです。せっかくお休み頂けたし、たまには実家でも行こうと思うんです。なんか実家の味に似てるからつい、懐かしくなっちゃって。」
水野は照れくさそうにニコニコと笑う。
「おぉ、そうか、良かった。実家どこなんだ?」
「登美丘東です」
「へぇ、あっちなのか。遠いな。」
「出身は新橋なんですけど、父が転勤で母と引っ越したんです。ま、守さんは出身どこなんですか?」
「俺は県外なんだよ。元は宮島の出身なんだ。」
「へえぇ、訛りとかないから気付かなかったですよー!」
「コミュニケーションとるのに困ったもんだからな、必死こいて直したよ。」
その後も水野は相川を質問攻めにして、気が付けば夜の22時を回っていた。
「あ、食器片付けねぇと。」
「あ、すみません、質問攻めしちゃって。俺やっと来ます。」
「いやいいよ。作ったの俺だし…」
「本当大丈夫ですって、先生は明日も仕事じゃないですか。明日に備えないと…。」
「そこまで言うなら…頼む。じゃあ運んどくのはやっとくな。じゃあ、邪魔したな。…おやすみ、雄輝」
相川は水野の食器を運んだあと、水野の頭を撫でて帰路についた。
「…心臓に悪い、か。」
1人車の中でふっと笑う相川と
「あーもうかっこいい…ずるい…」
自宅の玄関でへたり込む水野はまだ恋人としての試練はこれからと言うのを、この時はまだ知る由もなかった。
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