君は僕のお気に入り

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相川はなにかしてしまったのだろうかと悶々と考えながら昼を食べて、初めて手術の見学をした日以来‪、味がわからなくなるほど生きた心地がしなくなっていた。午後のオペには気持ちを切り替えなければと、自身を奮い立たせ、手術室へと向かった。 手術室へと通された患者さんに生年月日、名前、手術する部位を患者さんご本人と確認し合い、準備を進め、患者さんが眠りについたあと挨拶と最終確認をスタッフ同士で行う。手術開始から、2時間後なんとか無事に手術を終えた。 「お疲れ様でした。」 「お疲れ様、カルテ入力しておくから、あとは頼むよ。」 「はい」 着替えを済ませて、書類整理に取り掛かる。定時まではあと3時間、あと2時間したら院長室を訪ねなければならない。 「先生、お疲れ様です。」 「あぁ、田辺さん、ありがとう。」 「コーヒー飲みます?」 「あぁ、頼むよ」 「わかりました。すぐご用意しますね」 「ありがとう」 新人の看護師の田辺はイキイキとコーヒーを淹れ相川に差し出した。 「今日当直ですか?大変ですね…。」 「まぁ、慣れたもんだよ。田辺さんも仕事慣れた?」 「はいっお陰様で!あ、私入浴介助あるので、失礼します。お体大事にされてくださいね。」 「ありがとう」 パタパタと立ち去る田辺と呼ばれた看護師は、近くで様子を見ていたらしい同僚達に羨ましがられはしゃぎながら次の仕事へと向かった。 「相川先生ー、大人気ですねぇ本当に近々告白されたりするんじゃないですか?」 いつから居たのかうっすら髭を生やした麻酔科医の白石は相川を茶化した。 「白石先生…、やめてくださいよ、あんな若い子がおっさん相手に本気なわけないでしょう」 「またまたー田辺さんありゃ本気だと思いますよぉ、流石色男先生ですね。」 「何言ってるんですか。それより早く持ち場戻らないと志真先生にしめられますよ、そしてそろそろセクハラで訴えられますよ。」 「志真ちゃん怒ると怖いんですよねぇ、縁起でもないこと言わないでください。それじゃ、チョコ置いときますね、お疲れ様です。」 「どうも、お疲れ様です。」 軽口を叩きながら書類を進めていく。相川と白石は同期だがどうにも馬が合わず、若い頃はよく喧嘩ばかりしていたものだった。 未だに子供のように茶化してくる白石にはほとほと呆れてはいたが、嫌いではない、だが想像以上に時間を食っていたことが少し腹立たしくなり、少し眉間に皺を寄せて、なんとか書類はひと段落着いた。
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