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少しの休息
その日、ほとんど夕日は沈んでしまい、院内にいた看護師や医師たちの半分近くはカンファレンスを終え、帰宅し始めていた。
ほとんど真っ暗な1階は非常灯の明かりで照らされ、昼間の人の多さが嘘だったかのように静まり返っている。その中で近くを通らなければ分からないものの、整形外科の診察室の一室はぽつんと明かりが灯っており、 マウスを動かし画面をじっと見つめる医師と、静かに画面を見つめる理学療法士の2人が居た。
「折れてなかったんですね…よかった」
レントゲンを撮り終え、診察室で自身の腕とデスク上のパソコンを交互に見ると、水野はどこか恥ずかしそうに微笑む。
純粋に安心しているのが見ただけでも分かるのは、白衣を羽織り背もたれに背をゆったりと預けた相川だった。
「折れてなかったのは結構だが、数日は痛むぞ。」
呆れたようにカルテを入力していく。
「す、すいません…。」
「それから、数日休め。主任には俺から話を通しておく。」
「え!でも明日結構担当入ってますし…」
「バカ言うな。無理しても何も得はないぞ。その痛めた腕じゃよろけた患者を支えきれんだろ。それに怪我人を働かせるのは病院の評価にも繋がる。」
「あの…」
相川はまだ何か言おうとする水野にぐっと近寄ると、その口を相川の人差し指でそっと塞ぐ。
「…ドクターストップだ」
「…はい。」
顔を赤くし、少しばかり申し訳なさそうに水野は俯いた。相川はそっと離れると口角を少しあげて、意地の悪い瞳で水野を見やる。
「水野…」
そっと手を顔に伸ばしたその時、段々とこちらに近づく足音がしたので、相川は少し慌てて手を引っ込めた。
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