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ママは、少し震えていました。子宮にもその振動が伝わって来るようのです。ママは、何かを怖がってるようでした。
「私さ……去年、失敗しちゃったじゃん。あれっきり、子どもなんて産めないやって、諦めてたんだけど、でも、諦めきれなくて……また、同じ失敗しちゃったらどうしよって、思って……」
ママは、泣いているようでした。私は思わずばたばたと暴れる手足を止めて、ママの声に耳を傾けました。
「ごめんね……怖いんだ。ちゃんと産めるかな……赤ちゃん」
何か、温かいものがママに触れました。どうやら、パパがママの右手をぎゅっと握り締めたようでした。
「生めるさ。絶対に。俺とお前の子だ。安心してくれ。俺がついてる」
「良平……」
「良平じゃないぞ。──パパだろ。ママ」
「……ふふっ、もう、何よ。生意気なんだから」
2人は、もう私を出迎える気満々でした。
──はぁ、そこまで言われては仕方ありません。
ママを悲しませるわけにはいけません。本当に、生まれてきた私を見てどんな反応をするのか怖いですが、もうあとは成り行きに任せることにしましょう。
それに──そんな、嬉しいことを言ってくれる2人が、どんな顔をしているのか、早く見たいので。
私はもぞもぞと子宮の中を動き、光の差し込む方向へ、そっと、まだ小さな、これからもっと大きく、温かくなるであろう手を、精一杯伸ばしました。
私が生まれてくるまで、あと──。
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