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六限目 ローリング消しゴム
二重の螺旋で我々の身体の情報を持ち、先祖代々伝えてきた物、DNA。
デオキシリボース、塩基、リン酸より成り立つ⋯⋯らしい。
うーむ、かなりの用語の数だ。カタカナ語がとてつもなく多い。
DNAと言えば隣の彼はどのような情報を持つことになるのだろうか。やはり少し人と異なっているのだろうか?
「⋯⋯おい、なにこっち見てんだよ」
おっと、つい気になってしまい顔を見つめてしまった。
「ん?いや、特に理由はないよ」
話すのも面倒なので適当にはぐらかしておこう。怪しまれているようだが気づかないフリをして、ノートを書きとった。
ふむふむ、二重らせん構造⋯⋯っと。
——あ。
漢字を間違えてしまった。消しゴムで消すのも面倒ではあるが綺麗なノートのためにはやむを得ない。
消そうとしたときのことだった。コロコロと消しゴムが机の下まで落ちていく。そして無情にも手が届きそうで届かなさそうな場所に着地した。
身体を動かすのも面倒なので足でどうにか取ってみる。しかし消しゴムは僕の意思とは反対に机から少し遠ざかってしまった。
「⋯⋯それぐらい手でとれよ」
「甘いねぇ、ここまできたら足だけで取りたいもんなんだよ」
おそらくそんなことはないと思うが僕の中では足に届く距離、又は届きそうな距離のものは足で取るのがベストだと思っている。もちろん私物の場合。
「心なしかだいぶ遠くに行っている気がするんだが」
「うーん、もうちょっとで届くんだけどなぁ」
足をピーンと伸ばしたときだった。
腰掛けていた椅子からお尻が前に落ちてしまった。
あ、やばい、これは流石に怒鳴られる。
これから来るであろう衝撃に対し咄嗟に目を瞑る。
しかし、衝撃どころか音すら立たなかった。なんと隣の彼は手で僕を引き揚げていた。
「お、おい、早く座れ!重い」
「へ⋯⋯?あ!ごめん!」
落とした消しゴムを手で拾ってすぐに席に戻る。
「あの、ありがとう」
「チキンフライ奢りな」
まあ、奢ることになったものの無事授業を乗り切れたのは彼のおかげであるからよしとしよう。
授業の終わりのチャイムが鳴る。
「はい、気をつけ。ありがとうございました。で、そこの二人、放課後ちょっと来なさい」
——あれ?
流石にバレていなかったわけもなく二人でこっぴどく叱られた。
「チキンフライ奢りなしで」
「えぇ⋯⋯」
今日一日の授業が全て終わった。
それと同時に僕の成績も終わった気配がした。
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