ターちゃん

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喫茶店を出た後、僕たちはゲームセンターに立ち寄り、6時まで時間をつぶすことにした。エアホッケーをして、お互いに嬉しそうな表情を見せ、本気になったが、ハイヒールを履いていた彼女に僕が負けるはずもなく、彼女は僕から2点取るのが精一杯だった。 くたびれた声を出していた彼女に僕は言った。「これ撮ろうよ」 プリクラ。 お金を入れ、白木貴子と並んで撮った。 できあがった写真を見ると、金返せと言いたくなるくらいのものだった。 このころのプリクラは画像の質が悪かった。 とりあえず写真は僕がもらい、二人でプリクラの機械にもたれかかるようにしておしゃべりをした。彼女はちょっと前まで、どこかの会社の受付嬢をやっていたらしい。けど、今はなにもしていなかった。高校の頃は芸能界に入り、何本かテレビに出てやめてしまったんだとか。僕の方は、朝7時から昼3時まで焼肉屋でバイトして、夕方4時から深夜0時まで歌舞伎のスナックでバイトしていた。この頃には貯金も200万近くになり自分の店を持とうと必死こいて頑張って働いていた。 やがてゲームセンターを出て、明治通りの方に向かって歩き始めた。 僕がバイトしている焼肉屋で、家族や友人を連れて食べに行けば安くなる感謝デーをやっていたので連れて行ったんだけど。どうしてそんなとこに行ったかと言えば、たいていはノルマみたいなもので、誰かを連れて食べにきて欲しいと言われたからしかたなく向かったのである。 伊勢丹の近くにあるビルの八階でエレベーターを降りて、店に入って行くと、まだ早い時間とあって客は一人もいなかった。 ガラス張りの窓から花園神社が見渡せる店内には、新人の男の子とマネージャーだけがいた。普段なら、僕がよく話すスケベなチーフやウェイトレスの橋本さん、歌ちゃん、それに金さんなんかもいるのだけど、その日は全員休みで、どうにもならないお通夜状態。しんと静まりかえった中で、僕と白木貴子はそんな雰囲気を気にも留めず、笑いながら焼肉を楽しんでいた。 帰るとき、店のレジには店長がいた。「大野、この方は?」と尋ねた。 「知り合いです」と答えると、ターちゃんは丁寧に店長に頭を下げ、店長が「大野にはいつもいじめられています」といったようなことを言った途端、ターちゃんは肩越しに僕を振り返り、笑いながら「うそ、本当はいじめてるんでしょう?」と言ったから、僕も笑ってしまった。 で、帰り際にサブナードで、彼女の携帯電話の番号を教えてもらってその日は別れた。
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