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彼女は僕を見ると、「初めまして、あ、じゃなくて2回目だよね」とおおらかな笑みを見せた。その瞬間、僕の記憶はA氏の誕生日パーティーで彼女を見た光景に戻された。
いつまでもなく、彼女は男性の目を引きつけずにはおかないタイプの美人だった。
その彼女とお喋りしながら歩き出し、アルタの裏の路地にある喫茶店に入った。テーブルを挟んで彼女と向かい合って座り、コーヒーを飲みながらお喋りしていると、彼女は水が入ったグラスから落ちる水滴を幾度となく拭いて、グラスの底についた滴りを拭き取っていた。少なくとも1分おきくらいに。
だから僕は尋ねずにはいられなかった。「ねえ、なんでそんなに拭くの?」
彼女は楽しそうに言った。「こういうのが気になっちゃうの」
僕はにやにやしながら、そんな彼女が可愛いと思って見ていた。すると、彼女が姿勢をただして「ねえ」と僕に言った。
「手相見てあげる」
僕は鼻の下を伸ばしながら、「俺、頭脳線が短いんだよ」って言って見せた。
「ふーん」と彼女は相槌をうちながら、長い髪の毛をセクシーな仕草でたくし上げ、「でも、生命線は長いよ。ほら見て」とくちもとをほころばせながら言った。
それは僕に自分の無価値さを納得させるようなものだった。僕は心の中でため息をついた。生命線が長い、なんて聞くだけでもうんざりした。でも、自分の生命線を見ながら、彼女がそばにいてくれたら生きていってもいいかなって。そう思ったんだ。
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