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♯7 陽光の切れ端
中学生の頃に両親を亡くし身寄りのなかった私は施設で育った。そんな環境であるから生活は自分自身の力で為さねばならなく、高校を卒業すると当たり前のように働きだした。それは生活の為だけではなく、夜間制の大学に通うために学費を稼ぐという目的があった。昼間は近所のスーパーマーケットで夜は大学の講義と一日の時間という時間は殆どそれらで忙殺されていた。
初対面の人間は多感な時期に両親を亡くした私の生い立ちを知り気の毒に思う事が多いようだったが、私にとっては案外そういった感傷に浸る間もなく日々の生活に追われていた。いや、むしろ受け止め得ない現実を自ら時の流れを早くして忘れようとしていたのかもしれない。だから私は進んで友達を作る事をしなかったし、とにかく何もかもを自己完結する術を欲しがった。
そんな風だから、青春期特有の意味も無くただ快楽だけを求めて生きるような事も無かった。とは言っても私も若者らしい未来に夢見る事ぐらいはあったのだが、大人の保護下にある未成年のうちはそれまでの人生に縛られてしまう。人生を謳歌するのは自立してからだと、勝手に考えていた。
だからこそ、金を稼ぎ、日々節約し、金を貯め、そして知識を貯める事だけに夢中になった。必死になって物事に取り組むとあっという間に時間が過ぎていく。つまり早く大人になりたかったのである。
そんな中、私は一人の女性に出会った。
学校から三十分程度の場所に私のアルバイト先であるスーパーマーケットは店を構えていた。こじんまりとした店舗ではあったがそれなりに活気はあり、私は商品陳列やセール品の準備などを担当していた。店長含め店員は総勢十人。中でも私は比較的真面目な人間と思われているようだった。それは私自身が意識的に振る舞った訳ではなく、おそらく単純に与えられた仕事を黙々とこなしていただけだったからであろう。
ある日パートの女性が辞める事になり、新しくアルバイトを雇うこととなった。そして店長が何人かと面接を行い、一人の女性が働くこととなった。
それが、加藤成美だった。
彼女は私が卒業した高校の同級生であった。
「知っている人がいるから驚いたよ」
どうやら顔見知りが居ることに安心したらしく、彼女は私を見るとそれまでの強張った表情を和らげた。私はほとんど覚えていなかったが、何故か嬉しくなった。
それからしばらくの間、私は彼女の教育担当となった。彼女は物覚えも要領も良かった為私は思いのほかすぐ御役御免となったが、それでも一緒に仕事をする事は私にとって非常に有意義な時間となった。彼女も同様の感情を覚えていたらしく、恋仲に発展するのも割りと早かった。
加藤成美も私と同様、両親が居なかった。父親は幼い頃に病死、母親も数年前に突然失踪したらしい。しばらくは親戚の家に世話になっていたようだが今は一人暮しをして昼間はスーパーで働き、夜間制の大学で心理学を学んでいた。彼女の口からそれを聞いたときは驚きと同情に似た気持ちを抱いたが、それとともに同志のような心強さもあった。
続く
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