雨宿りには苺を添えて

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  「それで、どこまで行かれる予定だったんですか?」 「え……。あ、えっと、本鵠沼駅に行きたくて」 「ああ、それなら、この先を真っ直ぐ行ってふたつ目の角を左に曲がると青いマークのコンビニがあって、そこまで出たら踏切と駅が見えますよ。うちの傘、お貸ししましょうか?」  言いながら男がまた踵を返して店の奥に消えようとしたので、みのりは慌てて引き止めた。 「だ、大丈夫です! そこまでしていただくのは申し訳なさすぎます!」 「でも、ここから本鵠沼駅までは歩くと十分近くかかりますよ。この土砂降りの中、傘もささずに駅まで行くのは辛いと思うけど」 「う……っ」  たしかに男の言うとおりだ。  だけど雨宿りまでさせてもらった上にタオルまで借りて、更に傘まで借りるなんてことはさすがに図々しい気がして怯んでしまう。 「傘くらい、別に気にしなくていいですよ」 「でも……」  と、迷ったみのりは悩んだ末に"あること"を閃き、パッと表情を明るくした。 「それなら! 駅に向かう前に、お店の商品を見せてもらってもいいですか!?」 「うちの商品を?」 「はいっ! 実は、さっきから気になってたことがあって……。ここって八百屋さんですよね? 表にはフジミ青果って書いてあったのに、お店の中には野菜も果物もないから不思議に思ってて」  まくし立てるように言ったみのりは、足を一歩前に踏み出した。  ここまで親切にしてもらったのなら、お礼としてお店の商品を買って帰るのが筋だろう。  そもそもみのりは、この店の正体が気になっていた。  やっぱり、八百屋なのに何度見ても野菜も果物も置いていない。  並んでいるものは、大中小、彩り豊かな瓶だけだ。  甘い香りも変わらずに店内を包み込んでいる。
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