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「ご挨拶に来るのが遅れて、誠に申し訳ありませんでした!」
みのりは慌てて名刺を取り出すと、もう一度深々と頭を下げてから、それを高谷の前に差し出した。
「……別に、名刺の催促をしたわけじゃないんだけど」
対して、前髪をかき上げた高谷はため息をひとつついて名刺を受け取ると、温度のない目で手の中の紙切れを見やる。
ヤドリギの店主、高谷は見た目は三十代前半の、線の細い男だった。
白いコックコートがよく似合っている。
背はみのりよりも頭一つ半ほど高く、銀の細フレームをかけたインテリジェンスな容姿をしていた。
フジミ青果の店主、亮二ほどではないが、涼し気な目元が印象的な整った顔立ちをした二枚目だ。
そして亮二と同じく、肌が小麦色に焼けている。
「で、あまり時間もないから、さっさと要件を聞かせてもらえる?」
先に本題を切り出され、ごくりと喉を鳴らしたみのりは肩にかけた鞄の中から、おいしいシルシの最新号と企画書を取り出した。
「はい。昨日、お電話でも少しお伝えさせていただいたのですが、おいしいシルシに掲載していただいているヤドリギさんの広告の件でご相談がありまして……」
「ご相談って言われてもね。もう一ヶ月近く前に、今後は広告を出すのはやめますってメールしましたよね」
「……はい。その節はご丁寧に理由も添えてくださり、ありがとうございました。ですが今一度、契約についてご検討いただきたく、本日はこちらを持参いたしました」
そこまで言うとみのりは手に取ったおいしいシルシと企画書を差し出した。
けれど高谷はそれを一瞥(いちべつ)しただけで腕を組み、受け取らない。
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