雨宿りには苺を添えて

11/23

226人が本棚に入れています
本棚に追加
/178ページ
  「とはいえ、ジャムもコンフィチュールも使い方はほとんど同じです。パンにのせて食べたり、料理に使ったり……。よかったら、ちょっと食べてみますか?」 「えっ。そんなのありですか⁉」  驚いたみのりの口からは、よくわからない返事が飛び出した。  それに虚を突かれた顔をした男を前に、ハッと目を見開いたみのりは、数秒間沈黙してから今度は苺のように顔を真っ赤に染め上げた。 「すっ、すみません! 変な言い方して……! ちょっと興奮してしまって……」   恥ずかしい。穴があったら入りたいとは、まさにこのことだ。  そんなのありですか、ってなに。  普通に、「いいんですか?」って聞き返せばよかったのに。 「ふ……っ、ハハッ」 「え?」 「あ、いや、すみません。なんだか面白い人だなぁと思って」  けれど、予想に反して男はクツクツと喉を鳴らすと、楽しそうに笑った。  そして自身が持っていた瓶を棚に戻すと、みのりが持っていた瓶をヒョイッと軽やかに取り上げる。 「試食、普通にありですよ。ちょうど今朝、近所のパン屋で買ってきたバゲットがあるので、それにのせてみましょうか」  男は踵を返すと、みのりの返事を待つことなくまた颯爽と店の奥に消えてしまった。  そして、すぐにスライスされたバゲットの入ったバスケットと小皿、スプーンを持って戻ってくると、それをレジスター横の小さなカウンターの上に置いた。  
/178ページ

最初のコメントを投稿しよう!

226人が本棚に入れています
本棚に追加