雨宿りには苺を添えて

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    「あの……?」  どうしてそんな顔をするんだろう。  聞きたいけどなんとなく聞けなくて、言葉に詰まったみのりは男の整った顔を静かに見つめた。 「……って、野菜と果物が嫌いでもコンフィチュールならイケるって、意味がわからないよな」 「へ?」 「まぁでも、そんな感じです。とりあえず、気に入ってもらえたみたいでよかった」  けれど、みのりの心配をよそに、男は先程までそうしていたように飄々とした様子で顔を上げた。 (私の気のせいだったのかな?)  思わずみのりは心の中で首をひねったが、みのりの視線に気付いた男はニコリと笑って言葉を続けた。 「というわけで、もし気に入ってもらえたならお土産にこちらのコンフィチュールを──」 「い、意味わかりますよ!?」 「え?」 「あっ、す、すみません! えっと……つまり、コンフィチュールは野菜や果物が苦手な人でも美味しく楽しく食べられるってことですよね? トマトがダメな人でもトマトケチャップなら大丈夫みたいな……」  咄嗟に男の言葉を遮ったみのりは、そこまで言うと両手を頬に添えて俯いた。 「今仰ってくれたことも、まさに私が言いたいことだったし、私にはちゃんと伝わりました。だから、えっと……つまり、なにが言いたいかというと……」  もう、しどろもどろで、自分でもなにを言っているのかよくわからない。  それでも今、どうしてかみのりは、なんとかして男を励まさなければと思った。  それは、男が突然寂しそうな顔をしたからかもしれない。  なぜかとても、空元気に見えたからなのかもしれない──。 「わ、私、今までコンフィチュールがどういうものかわかってなかったんですけど、店員さんの言うとおり、コンフィチュールはジャムとは似て非なるものでした。ジャムはジャムで美味しいけど、コンフィチュールはまた違った感動というか美味しさというか、その……とにかくすごく、美味しかったです」  そこまで言うとみのりは、「私の方こそ意味わからなくてすみません」とこぼして顔を赤くした。 (さっきから、なに必死になってるんだろう、私)  でも本当にコンフィチュールは美味しかったし、なにより店員さんにはすごく親切にしてもらったから、どうにかして元気づけたかった。
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