雨宿りには苺を添えて

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  「ん?」 「そ、そうだった……。酷いバチもなにも、このままだと週明けに部長に雷を落とされるんだった」 「え?」  唐突にわけのわからないことを口にしたみのりを前に、亮二が作業をしていた手を止めて振り返った。  亮二のビー玉のような茶色がかった瞳と、みのりの絶望に濡れた瞳が交差する。 「あ──!」  その瞬間、みのりは"ある名案"を思いついて再び目を見開いた。  そして一度だけゴクリと喉を鳴らして、拳を強く握りしめる。 (そうだ……。そうだよ! こんなにもいい物件があったじゃない! これこそ、神様がくれたチャンスじゃないの!?) 「急に黙り込んで、ほんとにどうし──」 「あ、あのっ! つかぬことをお伺いしますが、こちらのお店は広告掲載などご興味ありませんでしょうか!?」 「え?」  気が付くとみのりの、仕事スイッチが入っていた。  みのりは興奮気味に身を乗り出すと、肩にかけていた鞄の中から名刺入れとクリアファイルを取り出した。  そのまま慣れた手つきで自分の名刺とファイルの中に入れられていたA4サイズの企画書を出し、まずは名刺を亮二の前にスッと差し出す。 「実は私、丸印出版で【おいしいシルシ】というグルメ情報誌の企画営業をしております、西富みのりと申します」 「ま、丸印出版……? おいしい、シルシ……?」 「はい! もしかして、おいしいシルシ、ご存知でしょうか?」 「え、ええ、まぁ……。知ってるというか……いや、け、結構有名ですから」 「ありがとうございます! 今日は湘南・藤沢地区で営業まわりをしておりまして、おいしいシルシにご興味を持ってくださる飲食店様を数店ご訪問させていただいていたんです。もしよろしければ、こちらの企画書に一度、目を通していただけませんか?」  亮二の反応を見たみのりは、嬉々とした表情で用意していた企画書を手渡した。  ついでに企画書と一緒に鞄に入れていた、おいしいシルシの最新号も亮二に渡す。  知っていてくれたなら話は早いし、余計に気合も入るというものだ。  
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