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「これまで、なにかの情報誌等で広告を出したことはありますでしょうか?」
「いや…………ないけど」
「それなら是非一度、うちの媒体に広告を出しませんか!? フジミ青果さんなら、ターゲットはおいしいシルシの購買層ともバッチリ、マッチすると思いますので!」
みのりの表情と言葉を見聞きした亮二は、思わず目を丸くした。
「──、」
そして、しばらく沈黙したあと、今の今まで優しさを滲ませていた瞳から、スーッと線を引くように温度を消していく。
「おいしいシルシでは、パン特集もやったりしているんです! だから、たとえばですけどそういうときに抱き合わせでフジミ青果さんの広告を掲載したら、すごく効果が期待できると思います!」
けれど興奮しているみのりは、今度は亮二の表情の変化に気づけなかった。
亮二はそんなみのりを前にまつ毛を伏せると、手の中の企画書の表紙へと、とても静かに目を落とした。
「掲載のための費用や、広告制作の過程と方法につきましても、そちらの企画書に詳細を記載させていただいております! おいしいシルシに広告を出すことで、フジミ青果さんをより多くの方に知っていただけると思いますし、なによりお店の売上アップにも繋がるはずです!」
力説したみのりは、内心で拳を強く握りしめた。
(よしっ。今日初めて、企画書の中身を説明させてもらえた!)
休日出勤したのに二軒に門前払いをされ、突然の雨に降られたときには何かの天罰かと思ったけれど、きっとすべてはここにたどり着くための布石だったんだ!
「……なるほど。じゃあ今日は、すでに午前中に何軒か、まわってきた感じだな?」
「え?」
「土曜日にも働いてるってことは、休日出勤だもんな。つまり、営業ノルマがヤバイってことだ」
けれど浮かれていたみのりは、亮二の口から出た思わぬ返事に、ギクリと肩を強張らせた。
なにを言われたのか一瞬理解が追いつかず、亮二の冷ややかな目に射抜かれ、今度はドクリと心臓が不穏に鳴る。
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