226人が本棚に入れています
本棚に追加
/178ページ
「あ、あの……」
「で、午前中は何軒まわった?」
「あ……え、と……。藤沢駅近くのお店に、二軒ほどお伺いさせていただきました。それと今日はこのあと、以前から広告掲載いただいている、本鵠沼駅近くの店舗さんにご訪問を──」
「ああ、だから本鵠沼駅目指してたのか。まぁでも、今の話を聞く限りじゃ全滅だろうな」
「え……」
「まず、午前の二軒は門前払いってとこか。それにこれから行く店からは、掲載をやめるって連絡がきたんじゃないか?」
(……どうして、わかったの)
図星をつかれたみのりは顔色を青くして固まり、絶句した。
なぜ、今、亮二にすべてを見透かされてしまったのかわからないのだ。
なにより今、目の前にいる男は誰だろう。
ついさっきまで物腰やわらかで、穏やかなスーパーイケメンだったはずなのに、今の亮二はまるで別人だ。
厳しい口調はみのりに付け入る隙など与えてくれず、場の空気は先ほどまでの和やかさが嘘のように凍りついていた。
「帰ってくれ」
固まったまま動けずにいるみのりに対して、亮二はフッと鼻で笑うと、手に持っていた企画書とおいしいシルシを、無造作にカウンターの上に置いた。
「うちは、広告は出さない。わかったら、今すぐ帰れ」
瞳と同じく、冷たい言葉だった。
怪訝な表情を浮かべている亮二は、もうみのりのほうを見ようともしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!