雨宿りには苺を添えて

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  「あ、あの……」 「で、午前中は何軒まわった?」 「あ……え、と……。藤沢駅近くのお店に、二軒ほどお伺いさせていただきました。それと今日はこのあと、以前から広告掲載いただいている、本鵠沼駅近くの店舗さんにご訪問を──」 「ああ、だから本鵠沼駅目指してたのか。まぁでも、今の話を聞く限りじゃ全滅だろうな」 「え……」 「まず、午前の二軒は門前払いってとこか。それにこれから行く店からは、掲載をやめるって連絡がきたんじゃないか?」 (……どうして、わかったの)  図星をつかれたみのりは顔色を青くして固まり、絶句した。  なぜ、今、亮二にすべてを見透かされてしまったのかわからないのだ。  なにより今、目の前にいる男は誰だろう。  ついさっきまで物腰やわらかで、穏やかなスーパーイケメンだったはずなのに、今の亮二はまるで別人だ。  厳しい口調はみのりに付け入る隙など与えてくれず、場の空気は先ほどまでの和やかさが嘘のように凍りついていた。 「帰ってくれ」  固まったまま動けずにいるみのりに対して、亮二はフッと鼻で笑うと、手に持っていた企画書とおいしいシルシを、無造作にカウンターの上に置いた。 「うちは、広告は出さない。わかったら、今すぐ帰れ」  瞳と同じく、冷たい言葉だった。  怪訝な表情を浮かべている亮二は、もうみのりのほうを見ようともしなかった。  
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