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「そ、それは……先程も言いましたとおり、広告を掲載することでフジミ青果さんを多くの方に知っていただけるキッカケになることと、売上アップにも繋がると思うからです」
「でも、うちはさっきも説明したとおり、超不定期営業だし、俺には別に本業があるんだぞ?」
「は、はい。でも、おいしいシルシの購買層とこのお店のターゲット層がマッチすると思いましたし、広告掲載がいいチャンスになるはずだと考えたら……」
「……ハッ。だから。それは全部、そっちに都合の良い理屈だろう。そもそも、おいしいシルシの買い手のほとんどは若い女性だ。でもうちの店の常連客のほとんどは年配者だし、遠方からくる客はほとんどいない。昔からこの店をよく知ってるご近所さんが、この店のご贔屓さんだ」
「え……」
亮二の言葉を聞いたみのりは、今度こそ返す言葉を失った。
色とりどりの瓶が並ぶ、コンフィチュール専門店。
きっとここに来る客のほとんどが、みのりと同世代の若い女性たちだろうと勝手なイメージを抱いていた。
そもそも、亮二はどうして企画書も読んでいないのに、おいしいシルシに詳しいのだろう。
もしかしてエスパー? なんて、さすがにそれは現実逃避だ。
「それに俺は別に、この店に大量の客が来てほしいとも思ってないし、売上のためにこの店をやっているわけでもない。今言ったとおり、俺には別に本業があるし、こっちは半分趣味みたいなものだからな」
「で、でも、せっかくお店としてやってるなら、たくさんお客さんが来たほうが──」
「じゃあ、仮に、客が殺到したとして、商品を作るのが追いつかなくなったら? 逆に店の評判は下がるんじゃないか? たまたま常連さんが買いに来たときに、これまで当たり前に買えたものがなかったら? その常連さんをガッカリさせることになるかもしれないとは考えないのか?」
「……っ、」
そこまで言うと亮二は、「ふぅ……」と息をつき、ヤレヤレといった様子で首を横に振った。
「だから、お前が今言ったことは全部、そっちの一方的な都合だって言ってんだ。悪いけど、俺はただ、この店を今のままここに残しておきたいだけだし。今言ったように繁盛させようとも思ってないし、これからもマイペースにやっていけたらいいと思ってる」
──だから俺は、広告を出すつもりはない。
そこまで言った亮二は、再び真っすぐにみのりを見つめた。
その亮二の目を見つめ返しながら、みのりはグッと拳を握りしめる。
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