雨宿りには苺を添えて

21/23

226人が本棚に入れています
本棚に追加
/178ページ
    「ど……どうしても、ダメですか?」 「しつこいな。そもそも自分が一度も商品を買ったこともない店を、赤の他人に自信を持って勧められるのか?」 「それは……っ」  真っ当な指摘だ。やっぱり返す言葉が見つからない。  さっきから、ずっとそうだった。  亮二が言うことは正論ばかりで、みのりの返事はすべてその場限りの薄っぺらい弁明ばかりだった。 「というか、そもそも、そんなにノルマに追い詰められてるなら、今後のこともあるだろうし、一度ちゃんと上司に相談したほうが──」 「わ……私が、紹介したいと思ったからって理由じゃダメですか?」 「は?」 「さ、さっき食べた苺のコンフィチュールが、すごく、すごくすごく、美味しかったからっ。だから私は、もっと色んな人に、このお店のコンフィチュールを食べてほしいと思ったんです!」  亮二の言葉を遮って力いっぱい叫んだみのりは、肩にかけた鞄の紐を握りしめた。  今、口にしたことは、嘘じゃない。  ノルマの達成なんてことは関係なく、今伝えた言葉こそが、紛れもないみのりの本心だった。
/178ページ

最初のコメントを投稿しよう!

226人が本棚に入れています
本棚に追加