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「自分以外の人に、"しあわせ"の、おすそ分けをしたい。それが理由じゃ、ダメですか?」
みのりの言葉に、今度は亮二が息を呑んだ。
亮二は、なにも言い返せなかったのだ。
対して、黙り込んだ亮二を前にみのりは亮二が自分に呆れたのだと思って、顔を伏せると声のトーンを落としてつぶやく。
「子供みたいなことを言ってしまって、すみません……。今、亮二さんが言ったことは、なにひとつ間違ってないです。私の考えが、浅はかでした」
「…………」
「雨宿りだけでなく、タオルも貸してくださって、ありがとうございました。コンフィチュールも、ごちそうさまでした。せっかく親切にしてくださったのに、嫌な気持ちにさせてしまって本当にすみませんでした」
そう言うとみのりは一度だけ深く頭を下げた。
そして静かに踵を返すと、そのまま店の外へと出ようとした。
「ちょ……っ、待った!」
「え……?」
けれど、そんなみのりの腕を亮二が掴んで引き止めた。
反射的に振り向いたみのりは驚いて固まったが、亮二は「あー……」と声をもらして眉根を寄せると、たった今掴んだばかりのみのりの腕を、パッと離した。
「とりあえず、ちょっと待ってろ」
ああ、きっと。ぶっきらぼうな物言いをする亮二のほうが、素なんだろう。
時々くだけた口調になっていたのも、この、素の状態の亮二が顔を出していたからなんだろうな──と、みのりは亮二の姿を目で追いながら思った。
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