雨宿りには苺を添えて

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  「フジミ青果……ってことは、八百屋さんかな?」  言われてみればなるほど、深緑色のオーニングテント……日よけは、昔ながらの八百屋といった風情がある。  みのりが生まれ育った地元・静岡の商店街にも似た雰囲気の、仲良し夫婦が営む八百屋があり、なんだか少し懐かしい気持ちになった。 「今日は定休日なのかな。でも、日よけが出てて助かっちゃった」  再びつぶやいたみのりは、ようやく動悸が治まってきたのを感じながら、改めて自分の状況を確認した。 (あ……うん、最悪)  先日クリーニングに出して受け取ってきたばかりのスーツはしっとりと濡れているし、新調したてのパンプスは水を吸って足先が気持ち悪い。  仕事の書類関係が入っている鞄はなんとか両手で抱えて死守したけれど、外側はスーツほどまではいかないにせよ、ほんのりと湿っていた。 「携帯は……」  よかった、無事だ。  鞄のサイドポケットに入れっぱなしだった社用の携帯電話を取り出して画面をタップしたみのりは、そこに表示された文字を見てまた小さくため息をついた。  ──六月六日、土曜日、十三時半。  休日出勤で迷子になった挙句に、予想外の雨に降られるなんてツイてない。  その上、本来の目的は未達成のままだった。 『西富、お前、今月こそしっかり働けよ!』  昨日、上司である(薄ハゲ)部長に言われた言葉が脳裏をよぎる。 「はぁ……」  今日何度目かもわからないため息をついたみのりは、オーニングテント越しに雨空を仰いだ。
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