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「ごめん、私、ちょっとイライラしてた。だから今のは全部忘れて。ほんとにごめん」
「西富……」
「朝日町は今日も午後からメディマ部と打ち合わせでしょ? 私もこの後、部長に言われたお店にアポ電入れたり、外回りで社外に出なきゃだから──大丈夫」
「大丈夫って……なぁ」
「江ノ島ユズリハ先生への挨拶も、来週の頭に行くことになったんでしょ? せっかく私がコンフィチュール買ってきたんだから、有効活用してよね! お互い、仕事……頑張ろう!」
最後は努めて明るく言うと、顔を隠した手をおろしてみのりは笑った。
精いっぱいの強がりだ。
朝日町は相変わらず眉根を寄せたまま難しい顔をしていたが、何を言ったらいいのかわからないといった様子で視線を逸らした。
「……じゃあ、私、行くね」
そのままみのりは踵を返して、朝日町と別れた。
ズキズキと、胸が火傷をしたあとみたいに痛い。
胸の前で握りしめた拳は震えていて、みのりは用もないのに早足でお手洗いへと向かった。
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