涙の言い訳には新玉ねぎ

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   * * * 「はぁ……気が重い」  翌日の土曜日、みのりは四週連続で藤沢市の本鵠沼駅に降り立った。  昨日、部長に指摘された件(くだん)の店に、これから頭を下げに行くのだ。  お店の名前は、『Cafe ヤドリギ』。  数年前から、おいしいシルシでカフェ特集や湘南特集を扱うときには決まって広告を出してくれていた店舗のひとつで、今は二代目が店主を務める地域に息づく老舗店だ。 「えっと……地図アプリで見ると、道はこっちであってるよね」  以前、ここへ来たときに見事な彩りを見せていた紫陽花は見頃を終え、今は青々とした葉だけが残っている。  目的地であるCafeヤドリギは、最寄り駅が同じフジミ青果とは駅を挟んで反対側にあった。  踏切を渡れば、真っ直ぐに伸びた道が目に入る。  ふと足を止めたみのりは、おもむろに後ろを振り返った。  
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