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「もし……私が丸印出版を辞めたら、また普通にお客さんとして行ってコンフィチュールを買えるのかなぁ」
ぽつりとこぼした言葉は、誰に届くでもない独り言。
馬鹿馬鹿しい。考えるだけ無駄なこと。
最後に見た亮二は、もうみのりの顔を見るのも嫌といったふうな顔をしていたし、さすがのみのりでも、自分を嫌っている店主がいる店に商品を買いに行けるほど、無神経でもなければ肝が座っているわけでもない。
「あーー。ダメダメ。もう、余計なこと考えるのヤメ!」
いつの間にか、下ばかり向いて歩いていた。
みのりは再び足を止めると、自分の頬をパチンと叩いてから「ふぅ」と短く息を吐く。
今日は、ヤドリギに用事があるのだ。
フジミ青果のことを考えている場合じゃない。
ヤドリギの店主に、広告掲載をやめる理由について再度確認すること。
そして、なんとかして契約を継続してくれるように頼み込まなければいけないのだ──。
「最悪、今流行りの土下座でもなんでもするっきゃないか……」
部長に言われた言葉を思い返して、みのりは思わず苦笑した。
「……行こう」
再び歩き出した足は鉛(なまり)のように重い。
それでもなんとか顔を上げて、みのりは目的地へと急いだ。
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