必然

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必然

たくさんの玩具と絵本に囲まれた部屋に真っ白な空間に似合わない鉄扉を 二人の子供は見つめていた。窓もなければ時計もない。 「あと5分だね…」 「そうだね…」 蒼瞳の子供がそう言えば、紅瞳の子供がそう答えた。 二人は物心ついた時からずっと一緒だった。 大好きなものも大嫌いなものも一緒。 怖いものも痛いものも一緒。 毎日この部屋で「おはよう」と「おやすみ」を言う。 どんなにつらくても時がわからなくても 一番にいられるなら平気。何よりも失いたくない。 失うぐらいなら一生このままでいい… ボロボロになった絵本に描かれた神さま。 お願い、かみさま、 そとのせかいに出れなくてもいいから… ぼくたちを引き離さないで。 時計がない部屋で時を知らない子供たちは初めて迫り来る時に どんな願いも少しずつ砕いていく、神さまに届けさせてくれない悲しみと絶望を感じる。 この5分がずっと、永遠に進まずに止まってくれたら。 何もいらない、一緒にいられるならなにもいらない。 自分の隣にいないのが想像できない。 話せば話してくれた。喧嘩も涙も其処に、いつも自分の隣にあった。 これは必然、当たり前のもの、永遠にあるんだとずっと、疑わずに信じていた。 たった5分がどんなにつらく、どんなに悲しくて、 今までがたとえこの真っ白な空間の中でも尊きものだったか 子供たちは迫り来る永遠の別れともに、知った。 「さあ、出てきなさい」 扉が開き、真っ暗な色と白衣の男性が現れて二人の子供たちに冷たく 短く後悔、悲しみの5分が終わったことを静かに告げられる。 一瞬でも緩めなかった強く結ばれた手は、大人たちに簡単に引き離され、 生まれて初めて自分の隣に空白が生まれる。 空白の恐怖に互いに初めて大声で引き裂かれて互いの名を呼び合う。 5分、5分に何がなかった…? ああ、別れの言葉… でもぼくたちに別れなんてあってはいけない 別れの言葉を言ってしまったらもう二度と会えない。 絶望しかない永遠の別れの未来に 実験体と称された子どもたちは 聞こえなくなるまで二人だけの名前を呼び合い続けた。
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